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伝説のテクノロジー

国産の材料にこだわり名器をつくる信州の巨匠

ヴァイオリン製作の巨匠といえばアントニオ・ストラディバリ。
17世紀イタリアのヴァイオリン製作者である。だが、21世紀の日本にも
徹底して素材にこだわるヴァイオリンの製作者がいる。井筒信一さんその人だ。
井筒さんがつくるヴァイオリンが奏でる音は、繊細で、流麗で、深く、強い。多くのヴァイオリン製作者とは異なる“つくり方へのこだわり”が、その見事な音を生み出している。

ヴァイオリン製作者 井筒信一さん

いい材料があると借金してでも買う

 JR中央本線・松本駅から車で15分ほど。四方を山々に囲まれた雄大な光景の中で、井筒信一さんは毎日ヴァイオリンづくりにいそしんでいる。

 「この辺りは静かだし、空気がわりと乾燥しているので、ヴァイオリンづくりに適しているんです」

 今年で79歳になるとは思えぬ張りのある声で井筒さんが言う。

 ヴァイオリンに使う木は、板状にして重ねておいて乾燥させる。湿度の高いところでは、いい音も出ないし、いいヴァイオリンもつくれないのである。

 「僕は今、北海道のアカエゾマツと楓を主に使っています。熱風などで強制的に乾燥させると、松の中の樹脂や松脂などが全部出てカサカサになってしまうので、自然乾燥にしています。長いものは30年くらい寝かせます。僕はうんと材料にこだわっていて、いい材料を見つけると女房には内緒で借金してでも買ってしまうんです」

 そういって、妻の秀子さんの方を見ながらにやりと笑う。

 ヴァイオリンの材料には、表側の板に松、裏側の板やネックなどには楓を使うのが通例だ。ただし同じ松や楓でも、欧州産でなければだめだという演奏家もいる。

 「以前、北海道産の木でつくっているメーカーがあると知り、僕も釧路まで見に行きました。そうしたらこれがなかなかいい。もちろん北海道産の木が全部いいというわけではありません。丸太の状態でいい材料になるかどうか、見抜く目が必要です」

仕事中は余計な音を耳に入れたくない。だからラジオもかけず、黙々と作業をする。聞こえるのは、夫婦の会話と木を削る音だけ。

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