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伝説のテクノロジー

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1100年前の駅舎を甦らせた保存・復原の技術

建築家 田原幸夫さん

100年間支えた松の杭

 田原さんによれば、この免震化工事が一番難しかったという。実際、この部分だけで工事期間は約4年におよんだ。ちなみにプロジェクト全体の工期は、約5年半である。

駅舎の下で100年近く駅を支えてきた松杭。

 実のところ丸の内駅舎の基礎には、約1万1,000本の松の杭が打ち込まれていた。創建以来約100年間、この松杭が駅舎を支えてきたのである。しかも今回のプロジェクトのために改めて調査したところ、松杭はそのほとんどが腐食していなかった。そのことが報道されると、多くの人が驚きの声をあげた。だが、田原さん自身は少しも驚かなかったという。 「日本の近代建築はほとんど松杭を基礎に使っています。東京駅でも以前、総武線地下駅の工事をしたときに松杭が出てきています。有楽町から続くレンガアーチの高架橋も、基礎には松杭が使われています。松の木は丈夫で、地下水に浸かっている限りは腐食しにくいのです」

 ただ駅舎はこれからさらに50年、100年と使い続けていくことになる。残念ながら松杭には引退してもらうしかない。そこで地下を増築し免震化する工事では、まず仮受けの杭を打ち込んで地上部を支え、地下を増築しつつ松杭を撤去していき、その後、本設杭を残し仮受け杭は撤去していくという方法を採った。素人でもこれがいかに難しい工事になるか、多少は想像がつこう。しかもそうした大工事を、毎日100万人以上が利用する東京駅としての機能を一切損ねることなく行ったのだから、もう驚嘆するしかない。

 またこの免震化では、352台の免震ゴムに加え、158台のオイルダンパーも設置されている。地震の際、丸の内駅舎が20センチ以上揺れると、中央線の高架橋とぶつかってしまう恐れがあるため、極力変位を抑える免震システムにする必要があったからだ。その結果、「真下に断層ができたりしない限り、大地震が起きても建物は絶対に大丈夫です」と田原さんが断言するほどの優れた免震化が実現したのであった。

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