次代への羅針盤
社会を俯瞰する視点が優れた研究を生む
本間敬之
議論する文化を米国で実感
スタンフォード大学での生活は、研究者としてだけでなく、私の人生観や教育観にも大きな影響を与えました。特に印象に残っているのが、当時一緒に研究していた仲間から「君は失敗するつもりで研究しているのか」と尋ねられたことです。研究には失敗がつきものですから、私は「転ばぬ先の杖」的に失敗後の対応を想定していろいろ説明していましたが、それに対し、「失敗を恐れるよりも、どうすれば成功できるのかに集中すべきだ」と言われました。ミスを犯さないように行動するうちに必要以上に保守的になり、自らの創造性に歯止めをかけてしまう傾向が当時の日本の環境では強かったように思いました。
スタンフォード大学のChris Chidsey教授研究室にて
こうした文化の違いをスタンフォード大学では数多く痛感しました。例えば、研究会など議論の場では、参加者が非常に積極的に意見交換しますが、時に「敵に塩を送るような」アイデアでも平気で口にします。最初は少々驚きましたが、やがて「これくらいのことを言っても自分はビクともせずにもっと先に進めるのだ」という強い自負と、それを実現する努力に裏打ちされている、ということがわかってきました。また、競争が熾烈であると同時に、再挑戦の機会もさまざまな場面で担保されていました。挑戦と変革を促す風土が国全体に根付いており、目から鱗が落ちる思いを何度も味わいました。
スタンフォード大学での経験は、その後の私の教育方針に強い影響を与えています。帰国後、私の研究室では、毎週のゼミ発表や質疑などすべて英語にし、さらに学生に質問を促してコミュニケーション能力の向上を図りました。優れた研究成果を得ても、その価値を世界に認めてもらうには、まず相手に理解してもらうことがスタートラインなので、語学力はもちろん、仲間と活発に議論を交わし、自らのアイデアを的確に伝えるスキルも必要だからです。この英語のゼミのために私の研究室を敬遠する学生もいたようですが、むしろ積極的に飛び込んできて一緒に盛り立ててくれる学生も少なからずおり、卒業後も国内外で活躍してくれています。