ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

「出会い」によって研究は導かれる

上垣外正己

常にポジティブな姿勢を

 頼まれたことは何でも引き受けたほうがいいというのではありません。ただ、引き受けたからには、自分を活かす方法を考える。そうすれば不安を抱きながら引き受けたことも、楽しみながらできるようになります。その経験は必ず、自分の力になるものです。

 私たちが金属触媒を使ったリビングラジカル重合法を開発した頃から、世界中の研究者がいろいろな化合物を使ってリビングラジカル重合法を研究するようになりました。それから30年ほどが経ち、リビングラジカル重合に関する論文は世界で3万報ほど発表されています。私たちの研究が世界に与えたインパクトの大きさが、ここに現れています。

 日本の科学研究力が低下しているといわれます。それが事実かどうかは別にして、今、大学の研究者には研究に使える時間も予算も余裕がないのは事実です。その一方で、研究の成果を求める風潮は強くなっています。そうなると、どうしても成果の出やすいテーマを選びがちになってしまいます。成果を早く出さなければならないという点では、企業の研究者は私たちよりもっと厳しいかもしれません。

 しかし、研究は楽しみながらやることが大切です。いろいろ制約はあるでしょうが、自分の良さや強みを見出し、自分に何ができるかを考えていろいろ工夫していけば、研究を楽しみながらやっていけるはずです。嫌々やっていたら、メンタル的にもしんどくなってしまいます。

 自分の工夫が少しでもうまくいくと、達成感が得られます。そうするとまたもう一工夫してみようというポジティブな気持ちにどんどんなっていきます。そういうことを繰り返していけばきっと、自分の研究に希望が持てるようになるでしょう。

 研究は、継続が大事です。継続することで初めて見えてくるものがあります。まさに継続は力なり、です。苦しくともポジティブな気持ちを失わず、希望を持って研究を続けてください。

継続することで、初めて見えてくるものがある。

上垣外正己[かみがいと・まさみ] 1965年、愛知県生まれ。京都大学工学部高分子化学科卒業、同大大学院工学研究科博士後期課程高分子化学専攻修了、博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、京都大学工学部助手、米スタンフォード大学化学科客員研究員、京都大学大学院工学研究科助教授、名古屋大学大学院工学研究科助教授を経て、2004年より現職。2020年、高分子学会賞受賞。上垣外研究室では毎週、上垣外が関連する研究の論文リストを作成する一方、学生は興味ある論文を選んで説明するセミナーを行っている。

[第21回松籟科学技術振興財団研究助成受賞]

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