ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

「出会い」によって研究は導かれる

上垣外正己

偶然の重なりが光明に

 それは1993年頃のことで、現在のようにインターネットはまだ普及していません。ある夜、教授室の片隅で、何冊もある論文冊子を1冊1冊順番に探していたら、その論文以外に、偶然に「ルテニウム錯体を用いる高選択的ラジカル反応」というタイトルの論文に出会いました。

 実はこのとき私たちは、どういう化合物を使ったら不対電子を持つラジカルを制御して生成できるかという課題を解決できずにいました。ところがこの論文には、何とそこに「遷移金属触媒を使うとラジカルが生成できる」と書いてあったのです。この反応を使えば、私たちが目指しているリビングラジカル重合ができる。そう考えて私は、このテーマを一緒に研究していた学生さんと実験を計画し、学生さんの機転もあって、リビングラジカル重合の端緒となる結果を得たのでした。

 この論文に出会わなくても、いずれリビングラジカル重合法は開発できたかもしれません。でも、座長を頼まれ、それがきっかけで若手研究会の主催を依頼され、それが論文の発見につながるという偶然が重ならなかったら、そこに行きつくまでにはもっと時間がかかったことでしょう。

1998年、留学先のスタンフォード大学でのポスター発表。背後の写真は受入先のRobert Waymouth先生。

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