次代への羅針盤
「出会い」によって研究は導かれる
上垣外正己
影響力のある開発に挑戦
モノマーの結合によって高分子が生成されていきますが、通常の重合では成長している末端の活性種が失活し、停止反応と呼ばれる副反応が起こります。この副反応のため至るところでモノマーの結合が止まってしまい、高分子の構造が不均一になります。このように末端の活性種が失活せず、停止反応を起こさない重合がリビング重合で、どの成長種も均一に成長するためきれいな構造の高分子をつくることができます。東村先生と澤本先生は、カチオンを使ったリビング重合である「リビングカチオン重合法」の開発に世界で初めて成功されました。
東村先生はとても温厚な方で、学生の考え方を頭ごなしに否定するようなことがなく、常に自主性を重んじる指導をされていました。だから私も研究が面白く感じられたのだと思います。私も今、自分の研究室ではできる限り学生の自主性を重んじるようにしています。
リビング重合には、プラスイオンを使うカチオン重合のほかに、マイナスイオンを使うアニオン重合、そして不対電子を持つラジカルを使うラジカル重合があります。
東村先生の研究室でリビングカチオン重合について研究し、博士号を取得する頃から私は澤本先生とともにラジカルを使ったリビングラジカル重合の研究をするようになりました。高活性なラジカルを制御してきれいな高分子をつくることができれば、工業的にも学術的にもインパクトがあると考えたからです。そして私たちは、高分子を精密に設計できる遷移金属錯体の触媒を使い、リビングラジカル重合法の開発に成功したのです。すでにこの重合法によって合成された高分子を材料にした工業製品も、いくつか市場に出ています。