次代への羅針盤
学ぶことがあれば研究は面白くなっていく
今までに発見・培養されている微生物は、自然界に存在する微生物全体の約1%。
自然界には未発見・未培養の微生物がまだ圧倒的に多いと指摘する青柳秀紀氏は、
異分野と積極的に交流しながら、微生物培養学のイノベーションを目指す。
Hideki Aoyagi
青柳秀紀
筑波大学 生命環境系 教授
抗生物質のない時代に逆戻り!?
人間は古来、微生物をいろいろなことに利用してきました。お酒、みそ、チーズ、ヨーグルト、パンなどをつくるには麹菌、酵母や乳酸菌といった微生物が欠かせませんし、抗生物質などの医薬品も微生物からつくられたものがたくさんあります。私の専門は微生物の培養学です。
微生物は、地球上の至るところにいます。土の中、川や海の中はもちろんのこと、ヒトや動物の体、南極のような厳寒の地にもいれば、火山の火口近くの高温の場所で見つかることもあります。
微生物の発見で大きな功績があったのが、顕微鏡です。17世紀の後半、「微生物学の父」といわれるオランダのレーウェンフックは、顕微鏡を発明し、初めて原生動物や細菌を観察しました。顕微鏡によって、初めて微生物の存在を確認することができたのです。
また、19世紀には、「近代細菌学の開祖」と呼ばれるフランスのルイ・パスツールやドイツのロベルト・コッホによって微生物の純粋培養法が開発され、自然界から微生物を単離し、増やすことが可能となり、微生物のさまざまな性質を調べたり、目的とした機能を持った微生物だけを選抜したり、研究や産業の現場でさまざまな利用が可能になりました。
これまで人間は莫大な種類の微生物を自然界から単離、培養してきました。そして、自然界に存在する微生物の大部分を培養できたと、多くの専門家が考えるようになりました。なぜなら、これまでの方法でどんなに培養を繰り返しても、新しい微生物を発見できなくなってきたからです。
新しい微生物を発見できないと、困った問題が生じます。例えば今、細菌やウイルスなどの多くが、抗生物質に対する耐性を持つようになっています。抗生物質が効かない細菌やウイルスが増えているのです。抗生物質の多くは、微生物によってつくられます。したがって、新しい微生物が発見できないと、既存の抗生物質に耐性がある細菌やウイルスに効く、新しい抗生物質がつくれなくなる可能性があります。もしそうなったら、私たちは抗生物質のない時代に逆戻りしてしまうかもしれません。