次代への羅針盤
サブのテーマを持って
研究の幅を広げよう
食品化学、栄養化学をベースに、“おいしさ学”という新たな学問領域を切り開いた伏木亨氏。
メインのテーマ以外にサブのテーマを持つことが、研究を続けるうえで重要だったという。
Tohru Fushiki
伏木 亨
甲子園大学学長
おいしさを科学的に解明
私の専門は、広くいえば食品科学と栄養化学です。けれども私自身がいちばん気に入っているのは“おいしさ学”という呼び方で、おいしさを科学的に解明するのが私の専門領域です。
私はもともと食べることに興味があり、京都大学農学部の食品工学科に入りました。ところが食品と名の付く学科であるにもかかわらず、おいしさについて研究している人はほとんどいませんでした。
学問では、対象となる分野を深く掘り下げることが大事です。しかし、おいしさには多くの学際領域が含まれており、深く掘り下げるのが難しい。だから私も、ドクターコースを終えるまでは真正面から研究することはかないませんでした。
そういう状況でしたから、私がおいしさの研究を本格的に始めようとしたら、当時私が師事していた助教授の先生にこういわれました。
「私は饅頭が好きだ。しかし、隣にいる人は饅頭が嫌いだという。では、おいしさはどこにあるのか。そもそも、おいしさという実態があるのかさえはっきりしない。そんな泥沼のような問題に取りつかれたら、研究者としての将来はないぞ」
私はこれを、そのような研究はするなという警告ではなく、研究に取り組むためのはなむけの言葉として受け止めました。この先生は、おいしさがどこにあるのかがわかれば、おいしさというものを解明できるというヒントを与えてくれた、と考えたのです。
私のおいしさの科学の追究が、そこから始まりました。