ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

自分で自分を売り込むくらいの気概を

丸岡啓二

日本と中国の違いは

中国 廣東工業大学の丸岡研究室

 私は中国の廣東工業大学にも研究室を持っています。2015年に私が主任教授として招かれたとき、この大学は中国の大学ランキングで160番台くらいでしたが、今は30番台まで上がっています。この背景には、何としても力を伸ばそうという学生の意気込みと、学長の「どんなことでも教えてもらって、ありがたく吸収する」という実に謙虚な姿勢と貪欲なまでの意欲があり、とても印象的です。

 以前から、私は「このままでは日本の科学は衰退してしまう」と危機感を持っていました。しかし、日本の企業や大学は、昔も今もあまり変わっていないように思います。今の日本と中国を見ていると、企業も大学も本気度が違うと感じざるを得ません。

 中国企業の研究者は力をつければつけるほど、地位も収入も飛躍的に上がっていくのでみんな本気で頑張っています。対して日本の研究者はどうでしょうか。海外で国際的に通用する力を身につけた研究者は、日本の企業にどれだけいるでしょう。

 日本のプロ野球の選手もサッカーの選手も今や国境を越えてどんどん自分を売り込んでいく時代です。企業にせよ大学にせよ、研究者はもっともっと自分を磨いて自ら売り込んでいく姿勢がなければ国際社会では通用しません。

 たとえ可能性は数万分の1でも、何とか実現しようと夢を追うのが研究者の醍醐味だと思っています。私は薬学研究科で研究を続けられる機会を得た今、「丸岡触媒」でつくった各種の人工アミノ酸、特にかさ高いジアルキルアミノ酸をペプチド鎖に導入する技術の開発に挑んでおり、新しいペプチド医薬を合成したいと思い、本気でこの夢を追い続けるつもりです。

金魚鉢の中で魚は大きく育ちません。

丸岡啓二[まるおか・けいじ] 1953年、三重県生まれ。京都大学工学部工業化学科卒業、同大大学院工学研究科修士課程中途退学、ハワイ大学大学院化学科博士課程修了、Ph.D.。名古屋大学工学部助手、講師、助教授を経て95年、北海道大学大学院理学研究科化学専攻教授に就任。2000年に京都大学大学院理学研究科に転じ、2019年4月より現職。中国の廣東工業大学主任教授を兼務するとともに、中国ベンチャー企業の経営にも参画している。紫綬褒章、フンボルト賞、日本学士院賞などを受賞。高校生のときは大学に進学するか料理人になるか悩んだというほど料理好き。今も時間があれば厨房に立つという。

[第12回松籟科学技術振興財団研究助成 受賞]

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