次代への羅針盤
厳しい状況でも、新しい領域の開拓に挑戦を
北川進
「feelalone」の世界へ
今はどこの大学も研究予算が厳しい状況です。そのうえ最近は基礎研究にさえ社会実装を求める風潮があります。任期付きのポストでは、好きな研究をしていいと言われても現実には難しいでしょう。
しかしそんな厳しい環境でも、これからの研究者には、この指とまれと言ったら100人くらいが集まるような新しい領域を開拓してほしいと思います。
海外に出て優秀な研究者と渡り合い、武者修行もしてほしい。内弁慶になったらいけません。以前は学生に「feelalone」になるところに行きなさいと言っていました。専門以外の学会に行くと、知り合いは誰もいません。同じ日本語なのに意味のわからない言葉が飛び交っています。そうして新しい領域にいることを実感してほしいのです。
もう1つ、クオリティの高い論文を書いてください。「ネイチャー」でも「サイエンス」でも、投稿した論文の審査は非常に厳しいものです。「絶対落としてやろう」という意気込みすら感じるほどです。何度も何度もいろいろ細かいことまで突いてきます。
だからほとんどの研究者が音を上げてしまいます。それに耐え、根気よく実験を繰り返してデータを追加して、それでようやく論文が掲載されるのです。でも、その途端、視界が開けます。サイエンスのレベルが上がっているからです。
厳しい状況だからといって、自分を甘やかしてはいけません。自らを律して、懸命にやってほしいと思います。
この指とまれと言ったら100人くらいが集まってくる。それくらいの新しいコンセプトを生み出してほしい。
北川進[きたがわ・すすむ] 京都大学物質-細胞統合システム拠点 拠点長 1951年、京都府生まれ。京都大学工学部卒業。同大学院工学研究科博士課程修了。近畿大学理工学部助手・講師・助教授を経て1992年、東京都立大学(現首都大学東京)理学部教授。その後、京都大学大学院工学研究科教授、同物質-細胞統合システム拠点副拠点長・教授などを歴任。2017年から現職。日本化学会賞、トムソン・ロイター引用栄誉賞、紫綬褒章、江崎玲於奈賞、日本学士院賞、藤原賞など受賞歴多数。週末には2時間半かけて11キロを歩く。
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