次代への羅針盤
厳しい状況でも、新しい領域の開拓に挑戦を
北川進
無用の用の面白さ
しかし私は最初からPCP/MOFを開発しようと考えていたわけではありません。もともとは金属錯体で有機物の超電導材料や磁石をつくる研究をしていました。溶かして壁に塗ったらそこが磁石になる、インクジェットで線を印刷したらそれが電線になる、そういうことを目指した研究でした。
転機は1989年、近畿大学に勤めていたときに突然やってきました。学生を連れて京都大学に行き、大型コンピュータで単結晶X線構造解析をしていたときのことです。結果が出るまで待っていると、1人の学生がこう言いました。「先生、これ、孔が空いていますよ」見ると確かに均等な大きさの孔が並ぶハニカム構造になっていました。私たちがつくろうとしていたのは電流を流さなければならない材料ですから、緻密な構造が必要です。たくさんの孔があるのでは失敗です。学生たちはがっかりしたような顔をしていましたが私は「これは面白い」と思いました。もちろんそのときPCP/MOFにつながるアイデアがあったわけではありません。ただ、この孔は何の役にも立たないように見えるが、もしかしたら活用できるかもしれない。そうしたら新しいサイエンスができるはずだとひらめいたのです。無用の用の面白さです。
そこから新たな研究が始まりました。試行錯誤を繰り返し、ようやく微細な孔が気体を自由に取り込んだり放出したりできることを発見しました。そして1997年、満を持して論文を発表しました。