次代への羅針盤
厳しい状況でも、新しい領域の開拓に挑戦を
北川進
多孔性配位高分子の研究
こうした体制の下、iCeMSでは多様な領域の研究者がさまざまな研究に取り組んでいます。ES細胞やiPS細胞、あるいはマウス胚などを用いて幹細胞の分化や増殖について研究しているグループもあれば、細胞有機化学という新しい研究領域の開拓に挑んでいるグループもあります。
私自身はPCP/MOF(多孔性配位高分子)の研究をしています。金属イオンと有機分子が交互に無限に連なるこの材料には、たくさんの孔が空いています。その孔が例えばガスを貯蔵したり、分離したり変換したりする機能を持っています。私たちは酸素や一酸化炭素(CO)など特定の気体分子だけを選択的に吸着するPCP/MOFをつくることにも成功しています。混合ガスから効率よくCOを分離・回収できれば、これまで利用できなかった排ガスを新たな資源として利用できるだけでなく、二酸化炭素排出量削減につながる可能性もあります。
このPCP/MOFはすでに本格的な実用化の時代を迎えています。PCP/MOFに関わるビジネスを立ち上げたスタートアップの企業は、私が知るだけでも世界に18社あります。実際にはおそらく20~30社はあるでしょう。iCeMSからも2015年、Atomis(アトミス)という大学発ベンチャーが生まれています。