次代への羅針盤
教養とセンスを磨かなければいい研究はできません
藤嶋昭
空はなぜ青いのか
小中高校生向けに話をしに行く出前授業も行っています。光触媒に限らずいろいろな話をしますが、いつも心掛けているのは身の回りのことから話し始めるということです。雲はなぜ白いのか、空はどうして青いのか。そう投げかけると子どもたちも興味深そうに耳を傾けます。そしてその理由を説明すると子どもたちは楽しみながら理解できるようになります。
身の回りのことに興味を持つこと。これは研究者にとっても大事なことです。何かを発見し、これは何だろうと思い、そして調べる。研究とはそういうことの繰り返しだからです。したがって研究者には、これは面白い、ここには問題があるということが分かるセンス、新しいテーマを見つけ出すセンスが必要になります。そういうセンスを磨くために役立つのが、読書です。
読書は教養を身に付けるためにも有効です。広い知識、教養がないと新しいことはなかなか見つけられません。しかし残念ながら今の学生はあまり読書をしないようです。私は東京理科大学の学長をしているとき、私財を投じて学生のための文庫をつくったこともあります。学生も若い研究者も自分の専門分野にとらわれず、もっと広い分野の本を読むべきです。広い教養を身に付けないといい研究はできませんよ。
今でも若い研究者たちとよくディスカッションします。若い人たちもよく頑張っています。教養をしっかり身に付ければ、これから日本の研究者がノーベル賞を受賞する可能性もたくさんあると思います。そういう面で私は楽観的です。
しかし中国の若い研究者たちも頑張っています。私の教え子には中国人もたくさんいますが、今そのうちの3人が中国で最も評価されている中国科学院の院士になっています。
中国政府は学術研究にも膨大な額の予算を組んでいます。それに比べると日本では基礎研究をサポートする予算が少なすぎます。そのために若い研究者たちが資金集めに多くの時間と労力を割かざるを得ない面もあるのでしょう。しかし現状のままでは、科学技術立国の先行きが本当に危ぶまれてしまいます。そうならないためにも若い人たちにはもっと本を読み、国際交流をし、広い教養を身に付けてほしいと強く望みます。
本当に優れたサイエンティストとは、選ばれし人間が最大限に努力をして初めてなれるもの。今の若手研究者は、研究に対する情熱が薄れてはいないだろうか。
藤嶋昭[ふじしま・あきら] 東京理科大学栄誉教授 1942年、東京都生まれ。横浜国立大学工学部卒業。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。神奈川大学講師、東京大学講師、テキサス大学オースティン校博士研究員などを経て1986年に東京大学教授に。2010年から2018年まで東京理科大学学長。財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長、日本化学会会長なども務めた。朝日賞、日本国際賞、日本学士院賞、恩賜発明賞など受賞も数多い。2010年には文化功労者、2017年には文化勲章。趣味は読書。テレビはニュース以外ほとんど見ない。毎朝4時に起き、自宅そばの多摩川べりを歩くのが日課。
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