次代への羅針盤
今こそ学問領域を超えた知の融合が不可欠
井上明久
知的好奇心を持ち、挑戦し続けていく
東北大学の総長をしているときも、実は研究者に戻りたいと思っていました。実際、今は一研究者として、研究に取り組んでいます。研究の拠点は、国内は城西国際大学の国際グリーンマテリアル研究所ですが、サウジアラビアのキング・アブドゥルアズィーズ大学や中国の天津大学、上海交通大学などとも連携して研究を行っています。だから今は月の半分以上は海外にいます。
日本も財政状態が厳しく、大学の予算もこれからは先細りしていくことが目に見えています。だからこれからは産学連携がますます重要になっていきます。同時に、グローバルなアライアンスにも積極的に取り組むべきだと思います。
そうしたなかで研究に取り組む若い研究者の方々には、知的好奇心を持ち、常に前向き思考で、継続的に努力し、挑戦し続けていくことを大切にしていただきたいと思います。そしてグローバル志向を持ち、外向きの生き方をしてください。
私は学生を指導するとき、学生の興味がどこにあるのかということに留意するようにしています。そして学生と話し合って研究テーマを決めた後は、安全上の問題がない限り自由に研究をさせるようにしています。ときには回り道をすることもあるでしょう。私自身もそうでした。でも若いときに回り道を経験しておけば、だんだん回り道せずに行ける術がわかり、さらに経験を積めばショートカットできるようにもなっていくのです。
若いときは回り道も失敗も大いに結構。そうしてひとりで悶々と考える時間が、やがて血となり肉となっていくのだと信じて努力を惜しまなければ、いつか必ずや成果を上げられるでしょう。
若いときは回り道するのもいい。ひとりで悶々と考える時間が、やがて血となり肉となっていくのです。
井上明久[いのうえ・あきひさ] 城西大学理事長特別顧問/松籟科学技術振興財団理事 1947年、兵庫県出身。姫路工業大学(現兵庫県立大学) 卒業。東北大学大学院工学研究科金属材料工学専攻博士課程修了。ベル研究所客員研究員、スウェーデン王立工科大学研究員などを経て、東北大学金属材料研究所教授に。2006年、東北大学総長に就任。2012年に退任するまで、教養教育の充実を図るなどの改革を推進。東日本大震災後には災害科学国際研究所を設立するなど多くのプロジェクトを実現させた。現在、城西大学理事長特別顧問、松籟科学技術振興財団理事。バルク金属ガラスの開発で、金属学の分野に新しい時代を拓いたことでも知られる。
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