次代への羅針盤
今こそ学問領域を超えた知の融合が不可欠
井上明久
性差、国籍、出身大学を問わない精神
大学とは本来、社会の役に立つ存在でなければなりません。実学主義とは、そういう意味です。もちろん応用や実用だけにとらわれるわけではありません。基礎研究をしっかり行っていけばおのずとその分野で秀でた存在となり、応用にもつながっていくのです。
日本の大学で女子学生を受け入れたのも、中国からの留学生に学位を授与したのも、東北大学が最初でした。門戸開放はまさに東北大学の伝統です。性差、国籍、出身大学などを問わない精神はその後も脈々と生き続け、今はグローバル化ともつながっています。
もうひとつ、東北大学には自由に研究できる環境があります。私自身、若いときは自由に研究できる環境を与えられていました。それがバルク金属ガラスの開発にもつながったのだと思います。
私は1982年、米国のベル研究所に行きました。当時、アモルファス合金の構造緩和に関しての定量測定解析をできる人は、日本にはほとんどいなかったからです。そしてベル研究所で修得した測定・解析技術を用いて、帰国後は東北大学の金属材料研究所で構造緩和やガラス遷移の研究に取り組みました。示差走査熱量計(DSC)を用いてアモルファス金属を熱処理して解析すると、構造緩和のきれいな定量的データが得られました。加工条件と測定結果が正確に対応する成果が得られ、まるで生き物のような挙動を示す金属に、私はすっかり魅せられてしまったのです。