次代への羅針盤
今こそ学問領域を超えた知の融合が不可欠
井上明久
自由に研究できる環境が開発を成功に導いた
やがて私は、構造緩和をもっと調べるためには、過冷却液体を示すアモルファス金属が必要だと考えるようになりました。構造緩和の研究が、結果的にバルク金属ガラスの方向にどんどん進んでいったのです。そしてある日、アーク溶解したままで結晶化しなくなる現象を見つけたのです。それこそがバルク金属ガラスでした。
その間およそ6年、私はひたすら自分の興味を中心とした地味な基礎研究に没頭していました。そういう研究が自由にできる風土の東北大学、あるいは金属材料研究所だったからできたことだと思います。
バルク金属ガラスは、酸化物ガラス細工のように熱して簡単に加工できますし、微細精密加工もできます。それでありながら結晶質材料と比べると強度は2倍以上、たわみ量も3倍以上あります。普通の金属はねじれ角度が4度で永久変形を起こしますが、バルク金属ガラスは16度くらいねじってもまた元に戻るのです。
従来の結晶金属にはないそうしたユニークな特性を持つバルク金属ガラスは、磁性材料としても使われていますし、かつてはゴルフクラブのフェイスに使われたこともあります。ナノサイズの加工も可能なので、従来の切削加工では不可能なマイクロギアードモーターのパーツもつくれます。直径1.5ミリ、あるいは0.9ミリサイズのモーターができるようになるのです。