ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

新しい原理で世界を一変させたい

廣戸 聡

バッキーボウルの合成にも成功

どうして一段階でできたのでしょうか。

 そこがいまだに謎なんです。ただ、この反応は、ほかの一般的なπ共役分子でも再現できるのが特徴で、この研究の1つのキーにもなっています。これまでのπ共役分子はよく光るとか電気を通すといった物性が確認されているので、いろいろな材料に使われています。そのようなπ共役分子を曲面にして構造的なファクターを付け加えることで、もともとある物性と構造的なファクターが融合して新しい物質ができ、それを既存の材料プロセスに載せることができれば、いろいろな材料展開ができるのではないかと考えています。

論文を発表されたのが2012年ということですが、その研究はだいぶ進んだのでしょうか。

 先程述べたように、この反応がいろいろなπ共役分子に適用できることがわかってきました。例えば、ポルフィリンに使うとねじれた構造を持つ分子ができました。しかもそのねじれは世界最大で、いまだにワールドレコードです。さらに合成した曲面分子がこれまでの平面構造を持つ分子には見られなかった機能性を示すことも見いだし、機能材料への応用を目指して研究を進めています。

資料によれば、世界初のバッキーボウルの合成にも成功されたとありますが。

 2015年に『ネイチャーコミュニケーションズ』に発表したアザバッキーボウルのことですね。ボウル構造を持つπ共役分子のバッキーボウルは、フラーレンやカーボンナノチューブ合成のカギとなる出発物質で、通常は全部、炭素でできています。ところが、私たちが開発したアザバッキーボウルはほぼ真ん中に窒素元素が存在しています。だから窒素元素の性質と曲面構造の両方を併せ持ち、フラーレンと強く相互作用する特性があります。その特性を利用して、超分子ポリマーの形成や二光子吸収特性を発現することも確認しています。

このときは偶然ではなかったのですか。

 (苦笑しながら)そうですね、これは狙ってつくりました。窒素という元素は反応性が高く、それまでこういう合成物は不可能と考えられていました。私たちの合成戦略を使うことによってそれが初めて可能となったのです。しかも歪みをどんどん大きくしていくことで、それぞれの反応のエネルギーが小さくなり、通常は1,000℃くらいの高温が必要だったのに、常温でも反応するようになりました。

次のページ: 分子サイズのコイルが可能になるかも

1 2 3 4 5