One Hour Interview
新たな有機合成法の確立を目指す
新谷亮
単分子レベルでの電子的特性の発現に貢献
新しい反応でできた分子自体、面白いものだったのですか。
こういう形の分子は、長さが長くなっていくと不安定になることが多いのですが、これは長くなっても不安定化しません。そこはほかの分子と非常に異なっていて、この分子の強みであると考えています。例えば一定の長さのある導電性の有機化合物をつくりたいと思ったとき、通常は長くなると酸化されたり、低温下でないと動作しなくなったりということがあるのですが、この分子はそういうことがあまりありません。長さを決めてつくることもでき、ナノメートルオーダーの単分子デバイスの有機物としても、ニーズに応じて長さが変えられるなどの特性があります。
「ナノサイズの分子デバイス構築に必須の単分子レベルでの電子的特性の発現・制御に関する研究が大きく前進する」と資料に記してありましたが、そういうことですか。
化合物の長さとか構造をチューニングしながらつくり、東工大の物理の先生に測定してもらい、その結果についてディスカッションしてという形でやっていますから、短期間で一気に進むわけではありません。でも、最近、共同論文を1報発表しましたし、これからも何報かの論文を出せるくらいの現象がいろいろ見つかっています。縫合反応で何でも解決できるわけではありませんが、今までにないつくり方を提案して実現するということでの学び、あるいはそこでできたものの性質を知ることでまた何かしら別のアプローチで違う分子構造がつくれるのではないか、そういうところに広がっていくことは期待できると思います。私たちが全部対応するのではなく、私たちの論文を読んだ人がそこからヒントを得て、「それならこういうこともできるのではないか」とアプローチする、そういう展開もいいですよね。
これまでに開発してきた反応の中に、縫合反応以外にも将来有望というものはありますか。
いくつかありますね。金属触媒の中には、転位反応といって、分子内の離れたところに金属がスッと移れるものがあります。そういう転位反応を組み合わせた反応もあります。こういう反応を使うと、従来の合成ルートでは思いつかないような分子変換が可能となります。