One Hour Interview
植物の代謝物を分析し、生命現象の謎に迫る
草野都
食糧問題の解決にも寄与できる可能性
つまり、植物工場や畑の栽培条件を模倣した実験室レベルの研究とは違うということですね。
そうですね。実際に商用利用されている栽培システムを用いて栽培したサニーレタスについて、代謝物群の量的・質的変化を詳細に解析した試みは、それまでありませんでした。そのうえでそれぞれの葉について2種類の高性能質量分析計による統合メタボローム解析を行いました。
その結果、代謝物プロファイルの差異については、植物体の部位や品種の違いよりも、栽培環境の違いが大きく寄与することが分かりました。そして、メタボロームデータを詳細に解析したところ、商用植物工場で栽培したサニーレタスは、土壌栽培したものよりもうま味成分であるアミノ酸類を多く蓄積し、苦み成分であるセキステルペンラクトン類の蓄積が抑制されていることも明らかになりました。
なるほど、同じ肥料を使い、同じ程度の光を当てても環境が違うと味が違ってくるということですね。
今までも、植物工場で栽培したサニーレタスと、畑で栽培したサニーレタスとでは、味が違うということは知られていました。でもその違いが何に起因しているのかは、誰も調べていなかったのです。
そういうことが分かれば、もっとおいしいサニーレタスをつくるにはどうすればいいのか分かるのでしょうか。
そう思います。今回のこの研究成果は、さまざまな農産物の栽培条件を評価するうえで、重要な知見になると考えています。今回、用いたメタボローム解析技術は、植物工場で栽培される野菜の味や機能性成分をカスタマイズするための指標としても利用できると思います。
メタボロミクスはいろいろな問題の解決に寄与できる可能性がありそうですね。
私たちは干ばつに強いイネの実証栽培にも成功しています。日本は人口減少時代に入っていますが、世界の人口は増え続けています。開発途上国などの経済も成長しているので、これからは食糧の増産が必要になるといわれています。
しかし一方では干ばつによる被害が毎年起きています。そうした中で干ばつに強いイネを栽培できるようになれば、食糧問題の解決にも寄与できるに違いありません。最近は医学の分野などでもメタボロミクスが使われ始めています。