One Hour Interview
植物の代謝物を分析し、生命現象の謎に迫る
草野都
思い切って研究分野の転換を決断
事前にいただいた資料には「メタボロミクス黎明期に留学先でいち早くメタボローム研究に携わった経験を持つ日本で数少ない研究者」とあります。まさにパイオニアですね。
そう言っていただけるとうれしいですね。今は日本でもずいぶん研究者が増えました。
新しい分野を開拓するというのは、そのこと自体、とても面白いのではないですか。
それはありますね。チャレンジングですし。思い切って研究分野を変えるのはとてもいいことだと思います。ほかの方にもお勧めしますよ。誰も歩いていない真っ白な道を歩いていくのは大変ですし、つらいこともたくさんありますが、そのほうが研究者として成長できるのではないでしょうか。
当時、オミックスの領域に多かった生物系の研究者は、遺伝子レベルで生命現象を見る傾向がありました。それに対して私はバックグラウンドが化学だったので、化学の視点で現象を見ることができました。そういう視点で見る人はあまりいませんでした。だから私の研究がうまくいった面もあると思います。
具体的にはどういう研究をされているのかお話しください。
今、研究しているテーマはいくつかあります。一つは環境と代謝です。私たちが健康診断で糖など代謝物の値を見るのと同じで、植物も代謝物の値を見ることで健康状態などが分かります。植物は人間のように話をしないので、人間のときよりもっと細かく見ないといけません。どういうストレスがかかると、植物がどういうメカニズムを通してストレスに対抗する代謝物を生合成するのかということを研究している感じですね。
そうしたことを調べるためには代謝物と合わせて転写物の解析も必要になります。私はストレスの中でも特に窒素代謝に興味があります。植物の生育は炭素・窒素代謝のバランス(CNバランス)によって制御されています。Cは光でNは肥料です。ただ、そうした制御の機構についてはまだ不明な点が多いのが実情です。