One Hour Interview
画期的な触媒の開発で新しい薬のつくり方やシーズを提案
有澤光弘
金属ナノ粒子が自己組織的多層状に集積
なるほどセレンディピティ的ですね。それで大成功というわけですか。
いや、まだそこから先が大変で、構造解析がなかなかできなかったんです。スプリング8に通ってエックス線の微細構造解析をして、同時にTEM(透過型電子顕微鏡)による解析もしましたが、うまくいきませんでした。ところがあるとき国際学会でこういう触媒ができたと話をしたら、とある外国の研究者が「構造は決まったのか」と聞いてきたんです。それで「やっているがうまくいっていない」と答えると「その触媒を1回、送ってくれ」と言うんです。費用はかからないというので送ってみるとすぐに結果が出ました。そのおかげで世界で特許のとれた新しい触媒「SAPd」が開発できたのです。今、この触媒は市販されています。
漏洩が少ないということのほかにも特徴があるのですか。
漏洩量は1ppb程度で、10回以上繰り返し使うこともできます。活性にも優れていて、繰り返し使っても反応速度はほとんど変わりません。金属ナノ粒子が自己組織的多層状に集積するというコンセプト自体、とても新しいものだと自負しています。しかもこの触媒は板状で、ピンセットでつまんで使うことができます。この操作性の良さも大きな特徴のひとつです。
その後、その研究はどのように発展したのでしょうか。
構造や原理が解明できたので、パラジウム以外に鉄やニッケルなどでもこうした触媒ができるようになりました。当然、パラジウムに比べるとずっと安価です。またこの触媒を使い、植物エキスや微生物エキスなどと合わせて新しい薬をつくる研究も進めてきました。すでにこの研究で天然になかった化合物ができています。天然物由来の非天然物ということです。