One Hour Interview
CO2を資源として活用できる道を切り開く
斎藤 進
異端も認められたら先端になる
先ほど、社会にインパクトを与える研究がしたいとおっしゃいましたが、それはなぜですか。
社会のシステムの中で大学ほど自由なところはないと思います。企業だったら「そんな金にならない研究はダメだ」と言われるようなテーマでも自由に研究できます。しかし自由には責任がともなうと思います。自由だからこそ、してはいけないことを考えないといけないし、何をしないかという自由も私たちは持っているはずです。でないと責任も果たせません。研究の成果を社会に還元するのが最終的な目標であるのなら、学術的にも社会的にもインパクトのある研究のほうがいいのではないでしょうか。難しいけれどあまり意味のない研究と、難しいけれど意味のある研究がある。大学の研究者はそういうことを考えないといけないと思います。私は人が行かないところに行きたがる性格で、今の研究も始めた頃は異端でした。本流の研究はたくさんの人がやっているのであまり興味がありません。でも、異端は認められたら先端になります。そして認められるためには価値がなければいけない。価値のない異端では、見捨てられるだけです。
先生は野依特別研究室の教授です。野依先生は学生に厳しいことで有名ですが、先生も厳しいのでしょうか。
野依先生からは「甘い」と言われます(笑)。でも、人を育てるには、やる気を出させ、自分から動くように仕向ける以外に方法はないと思います。どれだけ言っても本人にモチベーションがなければ長続きしません。自分がやりたい、やらなきゃと思うから人は動く。そこにしか教育の神髄はありません。教育に携わる人間はそのことを常に考えないといけない。それが50年近く生きてきた私の結論です。
名古屋大学 大学院理学研究科 野依特別研究室教授 斎藤 進[さいとう・すすむ] 1969年、岡山市生まれ。名古屋大学工学部応用化学科卒業。名古屋大学大学院工学研究科博士課程前期課程応用化学および合成化学専攻修了。工学博士。名古屋大学大学院工学研究科助手(山本尚教授)、名古屋大学高等研究院および大学院理学研究科(野依良治教授)助教授を経て、2015年より現職。アインシュタインに憧れ、物理の道に進みたいと考えていたが、「物理は天才しか成就できないから君には向いていない」と人から言われ、「2番目に好き」な化学を選んだ。「いろいろな学問と手を組んで新しい世界をつくることができる」というのが化学を好きな理由。1994年、米ハーバード大学に訪問研究員として行ったときには「これだったら何とか世界と戦えると感じ、ちょっと自信をつけた」と言う。
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