One Hour Interview
CO2を資源として活用できる道を切り開く
斎藤 進
社会にインパクトを与える研究をしたい
多くの研究者が無理だと思っていたのに、先生は無理だと考えなかったのですか。
それはモチベーションによるものだと思います。枯渇資源の代替になるもの、あるいは補完的なものをつくりたい。そのためにはカルボン酸は避けて通れない。これは絶対にやらなければならないと考えていたんです。社会にインパクトを与える研究をしたいという気持ちは昔から強くありました。ものになって社会で実装されるかどうか分からないにしても、とにかくその種になるものを大学で見つければ、興味を持つ企業も出てくるだろうという気持ちがありました。
でも、そういう学術的な動機だけではなく、化学者というのは単純なもので、安定で反応しないものがあれば反応させてみたいんですよ。純粋な好奇心ですね。ただ、新しいものなら何でもいいというわけではありません。そこはやはり価値のあるものにつなげていかなければいけません。価値につながるものとして、カルボン酸は重要なターゲットだったのです。
その研究は現在、どういう段階ですか。
ルテニウム触媒の活性を上げて、 1個のルテニウム触媒で1万個のカルボン酸を変換できるくらいにするのが目標とすると、今は1個の触媒で330個くらい変換できるという水準です。触媒を見つけた当時は33個くらいしか変換できませんでしたから、ようやく活性が10倍にまで高くなったわけです。ここからさらに活性を10倍上げるのはかなり難しく、ルテニウムの配位子を巧みに分子デザインしてルテニウムの電子的な性質などを変えたりする必要があります。