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伝説のテクノロジー

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淡路いぶし瓦

栄和瓦産業代表取締役・浜口健一さん

甍の波は日本の原風景

 淡路でも瓦製造に見切りをつける会社もある。浜口さんはそうした会社から金型やプレス機などを買い取っている。そうして集めた金型はすでに100台近くになるそうだ。

 「鬼瓦だけつくるとか飾り瓦だけつくるとか、淡路の瓦産業は昔から分業構造になっていました。そうして全部で4,000種類くらいの瓦をつくっていた時代もあります。だから廃業する会社が出てくると、そこがつくっていた瓦はほかではつくれないということになりかねません。その瓦の注文が来たとき、全国に名を馳せた産地が『それはつくれません』とは言えません。淡路でつくれないものがあってはいけないんです」

 この間、浜口さんは瓦づくりだけではなく、施工にも取り組んできた。瓦屋根の施工ができる職人が少なくなってきたことに対応し、熟練した職人でなくても施工ができる、接着剤を使う工法も開発した。「接着工法を取り入れたのは20年くらい前のことですが、当時は日の目を見ず、注目されるようになったのはこの5年くらいの話です」

鹿児島県指宿市『薩摩伝承館』

「瓦屋根を葺く職人が少なくなるなら、作業をできるだけ簡略化すればいいんです。瓦を固定する職人技も、接着剤を使えば誰でも固定できる。職人は減っていくかもしれませんが、限界はまったくないですね」と浜口さん。

 阪神淡路大震災以降、瓦の需要が急減してきたのは、震災のときに多くの住宅の瓦が落下したことが一因だとも言われる。地震に弱い、というイメージができてしまったのだ。しかし瓦業界ではその後、耐震性を強化するために釘で固定する工法を開発した。浜口さんが開発した接着工法も耐震には有効だ。「瓦屋根は値段が高い」というイメージもあるが、耐久性に優れた瓦は100年以上もつとされる。長期的なランニングコストで見れば瓦は決して高くない、というのが業界の主張だ。「先行きは厳しいですよ。でも、甍の波は日本の原風景のようなもの。淡路瓦は何としても存続させたい。そのためにはこれからも新しいことにどんどんチャレンジしていきます」

 どこまでもポジティブな浜口さんは、きっぱりとそう言い切った。

浜口健一[はまぐち・けんいち](右から4人目) 1972年、兵庫県生まれ。大阪工業大学卒業後、栄和瓦産業に入社。営業や経理、製造まで幅広い仕事をこなしてきた。36歳のとき、同社社長に就任。「新しいことにチャレンジするのが好き」で、銀色のいぶし瓦を黒くした「黒いぶし瓦」の開発や、レンガメーカーとコラボした「黒いぶしレンガ」の製造も手がける。子供のころから野球に取り組み、現在もマスターズ甲子園に出場中。もちろん贔屓は阪神タイガース。※撮影時のみマスクを外しました

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