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伝説のテクノロジー

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注染の手ぬぐい

戸田屋商店代表取締役・小林賢滋さん

使うほどに味が出る

 「染物なので、使い込むと落ち着いたいい色になります。だから『使うほどに味が出る』という人もいます。残念ながら、今は注染の技法を使える染工所が少なくなってしまいましたが、グラデーションをつけて染めたり、これだけ多くの色を染めたりできる技法は、注染以外にはあまりないでしょう」

 念のために記せば、戸田屋商店が染色まで行っているわけではない。同社はあくまでも製造卸という立ち位置で、実際に製作に携わるのはそれぞれの工程専門の職人たちだ。つまり、分業制である。

 手ぬぐいができるまでの工程を簡単にたどると、まず同社が図柄を決めたら、型彫職人に型紙を発注する。並行して生地を選んで手配し、型紙が出来上がったら生地とともに染工所にそれを渡す。このときに指図書も添える。染工所がそれに従って布を染めて乾燥させたら、反物の形で同社に納品する。それを手ぬぐいの大きさに裁断するというのが一連の流れだ。「うちは版元であり、そうした工程を管理するのが役割です」

 同業者の中には、染工所から納品されたものを裁断専門の業者に出すところもあるが、戸田屋商店ではその作業を社内で行っている。鋏で1枚1枚切ることで検品もしているのだ。これは重要な工程で、同社ではたいていの場合、小林さん自身が担当している。

染工所では、まず練地といって染料の浸透をよくするために、薬剤を入れた水槽に生地をつける。それを巻取機で丸巻にして、枠に張った型紙を生地にのせ、へらで防染糊を付ける型置き、染色、水洗い、乾燥と続く。

 「1日に1000枚くらいは切っていますね。注染はすべて手作業ですから、出来上がりはその日の気温や湿度にも影響されます。図柄や色に合わせて染料の調合も変えますから、一つとして同じものはありません。一期一会の出会い、これもまた注染でつくる手ぬぐいの魅力と言えるでしょうね」

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