伝説のテクノロジー
マッチ型お香スティック
神戸マッチ代表取締役・嵯峨山真史さん
売り上げは追うな
こうしてこの大手企業で「hibi」を販売することが決まった。嵯峨山さんはこの企業のオリジナルの香りを販売することも了承した。ただ、「hibi」というブランドも同時に表示する、いわゆる“ダブルブランド”で販売することをお願いした。「hibiというブランドが知られていないときに大手のブランドだけで販売したら、市場はその大手の商品としか思いません。私たちは最初からhibiというブランドをとことん磨き上げることを目指していましたので、現在もこの路線は堅持しています」
2016年1月には海外の展示会にも出品した。現在、海外約30カ国以上、700店舗(代理店からの報告に基づく推計)で「hibi」は売られている。国内のハイエンドアパレルメーカーの商品としても販売されている。もちろんこの場合もダブルブランドだ。
2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大すると、巣ごもり需要が拡大し「hibi」の売れ行きは急伸した。しかし、嵯峨山さんはそれを喜んではいない。
「不幸な出来事を喜ぶわけにはいかないということもありますが、私たちはhibiを日常の文化にすることが目標です。それには一気に大きく売れることより、長く売れることが大事です。だから社員にも『売り上げは追うな』と言っています。今はリピーターが増えてきています。ブランドの定着に、少しずつ手ごたえを感じ始めています」
おそらく今の若い人の中には、マッチを見たことも使ったこともない者も多いことだろう。子どもならなおさらだ。もしかしたらマッチで火を灯すという文化は、このまますたれてしまうかもしれない。しかし、「hibi」の出現により、マッチのようにしてお香に火を灯し、香りを楽しむ新しい文化が誕生するかもしれない。少なくとも「hibi」はその可能性に火を灯したのではないだろうか。
さがやま・まさふみ(左から3人目) 1968年、兵庫県生まれ。関西学院大学法学部卒。外資系大手メーカーに9年在籍した後、30歳のときに退職。父親が経営していた1929年創業のマッチメーカー、神戸マッチに入社した。2010年、同社代表取締役に就任。「hibi」を屋外でも使えるようにしたいため、現在、お香を防水化する技術・素材を探索中。趣味は、キャンプとトレイルランニング。今回の取材を機に「hibi」の頭薬についてハリマ化成に相談を依頼。同行した同社研究担当の執行役員からの提案を受け課題改善に両社で取り組むことになった。
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