伝説のテクノロジー
新しい日常のお香を目指して
マッチのように擦ることで火をつけ、香りを楽しむことができる新たなお香「hibi」。マッチとお香という2つの伝統産業が出合って生まれたこの商品は今、海外でも火がつき始めている。
神戸マッチ代表取締役・嵯峨山真史さん
生産量は最盛期の20%
「10年後にはマッチで飯は食えなくなっていると思いなさい」
1999年、外資系大手メーカーを退職し、神戸マッチに転じた嵯峨山真史さんに向かって、同社の社長だった父親はそう伝えた。
その頃、神戸マッチの売上高は輸出も含めて12億円くらいあった。だから嵯峨山さんは、先代社長の言葉をそれほど深刻には受け止めなかった。
だが、その後、マッチの売り上げは急速に低下していったのだった。
日本でマッチの製造が始まったのは明治初期とされている。その後、日本製のマッチは種類の豊富さや品質が海外でも高く評価され、重要な輸出品の一つとなった。そのため、雨が少なく温暖な気候でマッチ製造に適していた兵庫県の姫路市から神戸市にかけての一帯は、神戸港に近くて輸出に都合がいいことなどもあり、マッチ産業の一大集積地となった。
けれども1973年、100円の使い切りライターが登場したことで、マッチ産業には暗雲が垂れ込め始める。さらにその後、ガスコンロ、石油ストーブ、湯沸かし器などそれまでマッチで火をつけていた家庭用機器が次々と自動着火式になっていったこともあり、マッチの需要は急速に低下していった。今やタバコでさえ火をつけないタイプが出回るようになり、日常生活の中でマッチを見かけることは極端に少なくなったのが実情だ。
実際、神戸マッチのマッチ生産量も、嵯峨山さんが代表取締役に就任した2010年ごろには、最盛期の20%ほどにまで減っていた。