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伝説のテクノロジー

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甲州印伝 鹿革と漆が綾なす伝統美

門外不出の口伝を改めた理由

 一方で印傳屋はティファニー社やグッチ社など海外有名ブランドとのコラボも行っている。2017年には英国王室御用達の老舗ブランドであるアスプレイ社のクリエーション・コラボレーション・パートナーにも選定されている。また、シンプルな市松模様を基調にした「イルミナ」、ベージュ系の更紗と黒漆で立体的に表現した「ペルモネ」など独自のブランドも10以上立ち上げている。毎年9月には新しいシリーズの製品も発表する。江戸期から続く伝統技法を堅持しながら、つねに革新もしているのである。

 そうした印傳屋の商品は、有名百貨店などにも置かれているが、甲府本店のほかに青山(東京)、心斎橋(大阪)、御園(愛知)にも直営店がある。

 「お客さまの声を直接お聞きできるのが直営店のいいところです。ときにはお叱りを受けることもありますが、そうした声が必ず次の商品づくりに生かされます」と上原さん。

 直営店では、ショウケースに並べられた商品以外にも大量の商品が在庫として用意されている。客が気になった商品を言うと、店員が奥から箱を持ってくる。その中には同じデザインの色違いの商品がたくさん入っている。その中から本当に気に入ったものを客に選んでもらう。印傳屋はそうした伝統的な商売のやり方も大事にしている。ちなみに甲府本店の2階には「印傳博物館」があり、甲州印伝および鹿革にちなんだ貴重な収蔵品が展示されている。文化の担い手としての矜持がこんなところにも表れている。

 この印傳屋の当主は代々、上原勇七の名を受け継いできた。燻など印傳屋に伝わる技法は門外不出で代々、口伝で当主だけに受け継がれてきた。しかし上原さんの父親の代のとき「家督を継ぐ者だけしか知らないのでは産業として細いものになってしまう」として、口伝の伝統は改められた。ただ、上原勇七の名を継ぐ伝統は今も守られている。

 実は今年の1月、13代目の上原勇七さん(上原重樹さんの父親)が亡くなり、今度は上原さんが勇七の名を継ぐことになっている。単なる屋号ではなく、戸籍の名前も変更する。

 こうして上原勇七の名前、伝統技法、伝統工芸品をつくる誇り、そして文化を担う矜持が、次の世代、次の時代へと受け継がれていくのである。

82名いる社員のうち職人は45名。一番の若手は30代後半で、ものづくりがしたいと転職組が多いという。作業中はピンと張り詰めた空気だったが、上原重樹社長(前列中央)を囲んだ撮影には笑顔で応じてくれた。

うえはら・しげき 1960年生まれ。大学卒業後、社会勉強と語学のために2年間渡米。帰国後、印傳屋に入社した。1582年から続く上原勇七の14代目をいずれ襲名する予定。

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