伝説のテクノロジー
1本の木で命の尊厳を表現
盆栽作家 小林國雄さん
内面的な美しさを引き出したい
小さな木を大きく見せることを、形小相大と言う。そのためには「線と空間が大事」だと小林さんは言う。
針金を枝に巻き付け曲げ込みながら整形していく。その線を引き立てるには、空間を生かすことが重要だと巨匠は説く。
小さな枝や葉は鋏で切る。10年先、20年先の姿を思い浮かべ、どちらの方向に枝が伸びていけば美しいかを考えて鋏を入れていく。
鋏にはたくさんの種類がある。用途によって使い分けるのだが、小林さんは片手に4丁の鋏を同時に持って、作業することができる。「人のできないことをできるのがプロ。私は鋏を持ったまま針金をかけることもできます」
と話す小林さんのそばにいた弟子がこう言う。「弟子入りしたとき真似しようと思い練習しましたが、全然できませんでした」
もっとも小林さん自身は、鋏を4丁も持つのは「若いときに自分を売り込むためにやったこと」と、やや自嘲気味に語る。
「若いときはせっかちで、早く仕上げたかったし早く名前も売りたかった。だからつい手を加えすぎて木を枯らすことも多かったものです」
つくり続けて40年。齢70を超えた今になって作風が大きく変化したと言う。
「最初の頃は賞を取れるもの、高く売れるものをつくろうと考えていました。でも、今は金も名誉も追わずに、自分の好きな盆栽をつくろうと思うようになりました。もののあわれ、朽ち果てていく道行の途中にあるような命を感じさせる盆栽が好きなんです。そして品格と存在感。造形的にきれいなだけではなく、内面的な美しさを引き出したいというのが今のモチベーションになっています」
これから一番したいことは..。そう質問すると、即座にこんな答えが返ってきた。
「人を育てることですね。仕事に対しては厳しいですよ。外国人も含めて弟子は全員、寮生活。朝は6時起床です。大事なのは素直さと情熱。一所懸命努力すれば一流にはなれます。でもそれだけではトップにはなれない。そこは持って生まれた美意識や素質がないとね」
美術館で開いている盆栽教室は素人向け。これからはプロを育てるための教室を開くことも考えている。 盆栽づくりと人づくり。小林さんの二刀流人生はまだまだ続く。
小林國雄 こばやし・くにお 1948年、東京生まれ。都立農産高校卒業後、父親が経営していた園芸農家を手伝っていたが、28歳のときに盆栽の世界へ。独学で修業を積み、国風展、作風展など盆栽の有名な品評会で賞を総なめにしてきた。盆栽と縁の深い水石も学び日本水石協会理事長の肩書も持つ。趣味は庭いじりとカラオケ。
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