伝説のテクノロジー
ひたすら歩む弓弦(ゆみづる)づくりの道
弦師 澤山倫弘さん
ひまし油でロジンを煮込む
薬練の原料は松やに(ロジン)である。ただ、そのままでは硬くて弦に塗ることができないので、ひまし油で煮てペースト状にする。澤山製作所では30キロくらいの固形のロジンを購入し、2週間に1回くらいのペースで薬練をつくる。ロジン7、ひまし油3くらいの割合で混ぜ、しばらく煮込み、1回冷ましてからシンナーを入れて薄め、また煮込むという作業を3~4回繰り返し、ほぼ1日かけてつくる。
以前はゴマ油で煮ていたが、色がくすんでしまうことがあるため、5~6年前からひまし油を使うようになったという。夏の暑いときはやや硬め、寒いときには少し柔らかめというように、季節に合わせて微調整もしている。
「今はチューブ入りの市販品もあります。でも、やはり自分でつくった薬練の方が、使いやすいですね」
ちなみに「手ぐすねを引く」という言葉はこの薬練を語源としている。手の指に松やにを塗って、いつでも弓を引けるように準備万端、整えておくという意味である。
薬練を塗って乾燥させたら、補強のため弦の両端に布を巻く。もとは絹の布だったが、澤山製作所では綿の布を使っている。
「この布を巻く作業も難しいんです。接着剤を付けて隙間なくびっしり巻かないと、引いているうちに布がずれてきてしまうからです。弦づくりの重要なノウハウの部分で、どこもこの作業はよそに見せません」
ということで、今回の取材でも布を巻く作業は手元の撮影許可が出なかったほどだ。
こうしてでき上がった弦は、全国の弓具店に卸している。
「弓道人口は14万~15万人と言われています。エンドユーザーに直接話を聞く機会はあまりありませんが、ネットでユーザーの意見を知る機会はあります。うちの弦は品質にばらつきがなく、値段の割に扱いやすいと言われています。合繊の弦は初心者から有段者まで幅広く使われています」
そういう澤山さんも5年前くらいまで分からないことが多かった。実際、自分も弓道を経験すると、弦が硬すぎると引きにくいなど微妙な加減が分かるようになったという。