伝説のテクノロジー
ひたすら歩む弓弦(ゆみづる)づくりの道
弦師 澤山倫弘さん
有段者が好む麻弦
澤山製作所では祖父の代から栃木産の麻を使っている。ただ、最近の麻は以前に比べると弱くなったという。
麻は、大麻の原料になるため、栽培するには許可が必要であり、栽培にはさまざまな制約がある。そのため大麻をつくれないようにすることを目的とした、品種改良が続けられてきた。麻が弱くなったのはそのせいではないかと、澤山さんは推測している。
澤山弓弦製作所は創業約80年。澤山さんは20歳の頃から仕事を手伝い、3年前、父親の晃さんが他界したのを機に3代目を継いだ。
「親父から仕事を教わった記憶はあまりありません。作業手順を書いたマニュアルのようなものもありません。親父の仕事を見ながら真似をするようにして自分もやって、感覚を体で覚えていったんでしょうね」
弦づくりは分業制だが、弓矢づくりもまた分業制である。矢をつくる職人は矢師、弓をつくる職人は弓師と呼ばれる。澤山さんたちのように弦をつくる職人は弦師と呼ばれる。
弦の素材はかつて麻が使われていたが、今は切れにくく品質が安定している合成繊維の弦の方が多い。ただ、合成繊維と麻では弓を引いたときの弦音が違い、麻の弦を好んで使う人も少なくない。特に有段者には、麻弦を使う人が多いという。
麻弦の場合、まず麻の繊維を裂いて糸状にし、それを何本も縒り合わせて1本にする。そして接着剤に漬けてから竹に張り、乾燥させてからまた縒りを入れる。1日にその作業を3回繰り返し、仕上げとして弦に「薬練(くすね)」を塗る。弦を補強するとともに、表面が毛羽立つのを抑えることが目的だ。