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伝説のテクノロジー

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国技・大相撲の伝統と格式の象徴大銀杏を結う

床山 床松さん

断髪式でも鋏(はさみ)を入れないこだわり

 一方、力士にとって大銀杏は出世のシンボルでもある。1日でも早く十両に上がり、大銀杏を結えるようになることは、すべての力士の目標だ。けれども現実には十両に上がれぬまま土俵を下りる力士も多い。春日野部屋の場合、そうした力士が辞めるときには特別に大銀杏を結い、部屋の土俵で断髪式をする。最後の止め鋏を入れるのは親方だ。

 「でも、私は鋏を入れません。床山の仕事は髷を切ることではなく、結うことですから。そこは私のこだわりです」

 大相撲の番付には、力士の名前だけでなく行事や呼び出しの名も記載されている。しかしかつては床山の名だけ番付に載っていなかった。それでは若い床山の励みにならないということで、10年ほど前から特等と1等に限って床山の名も番付に載るようになった。

 昨年の10月21日、大相撲の地方巡業が愛媛県今治市で開かれた。地方巡業では本場所と違い、土俵上での稽古が披露されたり、初っ切りが行われたりする。この日は「髪結い実演」も行われ、床松さんが土俵に上がり大勢の観客の前で栃煌山の大銀杏を結い上げて見せた。裏方の床山が表舞台に出てくるのはあまりないこと。観客もめったに見られない場面を興味深そうに見つめていた。

 見事な大銀杏を結い上げ、観客の拍手を浴びながら土俵を下りるとき、床松さんは誇らしげに手を高く上げて声援にこたえた。

「髷を結った関取衆が番付の上にあがったときは、やっぱりうれしいな」と目を細めて床松さんは言う。

 「地方巡業のときは、他の部屋の若い床山が私の結髪を見に来ることもあります。逆に私が若い床山の仕事を見てアドバイスすることもありますよ。今は一門ごとに床山が集まって、一緒に勉強会を開いたりもしています」

 床山は65歳が定年。頂点を極めた床松さんの技を見られるのも、あと3年を残すのみである。

本名:松井 博(まつい ひろし)1954年、北海道函館市生まれ。1970年、床山として春日野部屋に入門。部屋の力士の結髪を務める。2014年12月24日付で1等床山から特等床山に昇格した。「髷を結っていると、その力士の調子がだいたい分かります」と言う。

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