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伝説のテクノロジー

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国技・大相撲の伝統と格式の象徴大銀杏を結う

床山 床松さん

最高位の特等床山に昇格

 力士の髷(まげ)を結う床山は、日本相撲協会に雇用される。だが、力士と同様、床山も相撲部屋に所属するのが習わしだ。そして力士の四股名(しこな)と同じように、床山にも独特の名前が付けられる。たいていの場合、床山の「床」の字に本名の1文字を加える。松井さんの名は春日野部屋に入った日から、床松となった。

 相撲は番付社会。床山にも一番下の5等から最高位の特等まで6段階の階級がある。特等になれるのは、勤続45年以上で、特に優れていると評価された床山だけだ。特等床山は番付で言うと三役格で、移動のときはグリーン車に乗り、巡業先のホテルや食事も別格だ。

 床松さんは2014年12月、1等床山から特等床山に昇格した。現在、特等床山は床松さんも含めて2人しかいない。文字通り、頂点を極めたのである。

髷を結うには、くせ直しといって、まず、髪に水をまんべんなく付け、よく揉んでいく。
元結で結ばれた部分の少し先を先縛りで縛り、しっかりと折り曲げ髷の先を広げてから銀杏の葉の形にしていく。

 その床松さんは駆け出しの頃、毎朝、春日野親方の整髪をした。親方はくせ毛なので、まずお湯を付けて髪を丹念に揉む。整髪といってもポマードをつけてオールバックにするだけだったが「栃錦の頭に触れるのはうれしかった」と床松さんは言う。

 大銀杏を結うときに使う鬢付(びんつ)け油には、かつて松やにが使われていたこともある。場所中、支度部屋にはその鬢付け油の独特の香りが漂う。

 相撲部屋で床山は力士たちと寝食を共にする。起床は朝の5時半頃。力士が稽古を終え、風呂から上がったら床山の仕事が始まる。といっても、大銀杏を結えるのは十両以上の関取だけ。それも本場所のときや公式の行事があるときなどに限られ、普段は関取も丁髷(ちょんまげ)である。

 「入門したての頃は、何もしなくていいからただ先輩の仕事を見ていろと言われました。同じ頃に力士として入門した若い衆が3、4人いて、誰かひとりがミスをすると連帯責任で全員が怒られました。今は相撲界も暴力厳禁ですが、あの頃は手が出ることもありました。厳しくて悔しくて、泣いたこともありました」

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