伝説のテクノロジー
手描きの鯉のぼりづくりに挑戦し続けてきた50年”
鯉のぼり職人 橋本 隆さん
100メートルのジャンボ鯉のぼりも制作
「この鯉のぼり、なんだか品が悪いわね」
若い母親からそう言われたこともあった。「50年間、鯉のぼりをつくっていて、品が悪いと言われたのは後にも先にもあのときだけ」と、橋本さんは苦笑する。けれどもその若い母親に対し、怒るどころか、深々と頭を下げたい気持ちだったという。「自分がつくらなければ、この人が欲しがっている鯉のぼりは誰がつくるのか。そういう使命感があります。それに、悪口でも何でも、デザインに対する批評は、次の新しいデザインにつながるヒントになるかもしれません。だから、よくぞ言ってくれたと思ったのです」
客の要望を聞くだけではない。橋本さんは虫や鳥の羽を見て、デザインの着想を得ることもある。植物図鑑を見て、花のデザインを考えたこともある。ある洋画を見て「鳳凰」という名の鯉のぼりをデザインしたこともある。
こうして橋本弥喜智商店がつくる鯉のぼりのデザインはどんどん増えていき、今は33種類もある。かつては「まだやっているの」と言われた「手描き」が今は全国に知られるブランドになっている。おかげで職人総出で1年中つくっても、注文に追いつかないほどの忙しさだ。
1988年には加須青年会議所からの依頼で、長さ100メートル、重さ600キロのジャンボ鯉のぼりも制作した。このとき橋本さんは、鯉のぼりが空に揚がったらどう見えるか、イメージをつかむため羽田空港に何度も通っては、大型旅客機を観察したという。
このジャンボ鯉のぼりは一般市民が色塗りに参加してつくられる。加須市では毎年5月、クレーンで吊り上げてジャンボ鯉のぼりを泳がせるのが恒例行事になっている。今年は延べ3,000人以上が参加して、新たに4代目のジャンボ鯉のぼりを制作した。