伝説のテクノロジー
新しいアートの世界を切り拓く200%ポジティブ体質の書道家
書道家 武田双雲さん
自他ともに認める「書道オタク」
書道の世界には「臨書(りんしょ)」という言葉がある。簡単にいえば、手本を真似て書くことだが、字の形を真似る「形臨(けいりん)」、作者の生き方や性格を踏まえ、作品の意図をくみ取って真似る「意臨(いりん)」、手本を見ずに作者の書風を自分自身のものとして書く「背臨(はいりん)」という3段階がある。真似るは学ぶに通じるというわけで、武田さん自身、今でもよく臨書をするという。
けれども武田さんは、「書の技量を上げるには好奇心を持つことが一番大事」と語る。
「頭の中でどんなにうまくなりたいと思っていても、字が好きで仕方がないとか、書くことが楽しくて仕方がないという人に勝てるわけがありません。知識とか義務感では太刀打ちできない。だから字に対して興味を持ち、好きになること。まさに好きこそものの上手なれです」
かくいう武田さん自身は、自他ともに認める「書道オタク」だという。字が大好きで、
人が書いた字をずっと見続けているし、時間さえあればいつでも字を書いている。新幹線や飛行機に乗っているときもほとんどずっと字を書きっぱなしだ。面白いことにどんなにたくさんの字を書こうとも、武田さんの指にはペンだこができない。腱鞘炎になったこともない。うまく書こうと意気込んで書くのではなく、ただひたすら自分が楽しむためにリラックスして書いているから、余分な力が入っていないのだろう。
「書くことが好きなので。どんなに長い時間書いていても飽きるということがありません。楽しくて仕方ない。僕にとって書道はゲームをしているのと同じ、100%、遊びです。遊びで楽しいからいつまでもやっている。その感覚を死ぬまで持っていきたいと思っています」
書の道は奥が深い。武田さんも、自分の字を完璧だとは思っていない。だが、完璧ではなくても、ベストだとは思っている。人と比べてうまいとか下手という評価軸ではなく、自分が好きで書いているのだから、自分の書いた字を否定することはしない。それが武田さんの流儀だ。
「人と比べたり競争したりすると、こうしなくてはいけないと義務感に駆られ、ここがよくないとネガティブに考えるようになってしまいます。でも僕は自分が楽しむのが目的ですから、ここがいいとポジティブに考えます。書道教室で生徒さんの書いた字を見るときも、悪いところを矯正するのではなく、いいところを伸ばすようにしています。とにかく何でも楽しむことが大切。僕なんて朝目が覚めたとき、さあ今日はどういう角度で体を起こしたらいちばんきれいに見えて楽しいだろうかということを毎日考えていますよ」
たとえ同じ文章でも、ワードで書いた手紙と手書きの手紙とでは、確実に伝わってくるものが違う。一つひとつの文字、一本一本の線に思いを込めて字を書くことの楽しさ、素晴らしさを教える現代の伝道師。
武田さんに今、求められている役割は、まさにそこにある。
たけだ・そううん 書道家。1975年、熊本県生まれ。東京理科大卒。映画「春の雪」、「北の零年」、NHK大河ドラマ「天地人」、世界遺産「平泉」など、数多くの題字やロゴを手がけている。ロシア、スイス、ベトナム、インドネシアなど海外各国でも書道のパフォーマンスを行っている。『武田双雲にダマされろ』(主婦の友社)、『はじめてのお習字』(幻冬舎エデュケ-ション)、『こころをつよくすることば』(日本出版社)など、著書多数。
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