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新しいアートの世界を切り拓く200%ポジティブ体質の書道家

ミュージシャンや彫刻家などさまざまなアーティストとのコラボレーションや斬新な個展など、 独自の創作活動で知られる書道家の武田双雲さん。
「書道は人格修養であり、スポーツであり、コミュニケーションであり、総合アートです」と明言する武田さんは、 書道教室も主宰しながら、講演活動も行い、本も執筆するなど八面六臂の活躍ぶりを見せている。
「毎日が楽しくて仕方がないし、嫌いな人には会ったことがない」という姿勢はポジティブそのもの。 長い歴史を持つ書の世界でも、異色の輝きを放つ。

書道家 武田双雲さん

双雲、筆を選ばず

シュっと墨と硯面がすれ合うたびに、松煙墨のよい香りが漂う。

 硯の上で円を描くように墨をする。書く文字の量にもよるが、ときには30分も1時間もすることがある。静謐な時間が流れる中で、ほのかな香りが漂ってくる。墨は、植物油や鉱物油などを燃やした煤(すす)と膠(にかわ)を混ぜてつくる油煙墨(ゆえんぼく)と、松やにを燃やした煤と膠を混ぜてつくる松煙墨(しょうえんぼく)とに大別できる。今、武田さんがすっているのは、香りに特徴のある松煙墨だ。

 「墨とか硯とか、書の道具は基本的に長い間変わっていないでしょう。製法も1000年以上、ほぼ変わっていません。ただ僕は、中国の墨より、日本の職人さんがつくった墨の方が好きです」

 やはり、道具にはこだわりがあるのだろう。そう思って「松煙墨を使うのはどういうときか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。「こういうときにはこの墨というように、決めているわけではありません。墨の色の濃淡もすり方次第なので墨の種類とは関係ありません。松煙墨は香りがいいので、精神世界を表現するときとか、時間軸の長い言葉を書くときに使いたくなるかもしれませんが、要はそのときの気分次第。特別なこだわりはありません」

 筆は、100本くらい持っている。ただ、よく使うのは10本くらい。職人にオーダーメイドでつくってもらった筆もある。だが、筆にもこだわりはないという。

 「弘法、筆を選ばずといいますが、弘法大師は実はものすごく筆にこだわったという説もあります。でも僕は本当にこだわりがありません。100円の筆ペンでもいいし、筆先がぐしゃっとつぶれたような筆で書いても面白いと思ってしまいます。もちろん職人さんのつくる筆は素晴らしいですし、道具を大切にしていると、大切にすべき道具に出会いますが」

 “双雲、筆を選ばず”というわけである。

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