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伝説のテクノロジー

伝説のテクノロジー

色、形、光、音、リズムを駆使して花火大会を演出

宗家花火鍵屋15代目当主・天野安喜子さん

音源も自分で選択

 父の修さんは色を重視した演出をしたが、天野さんは音にこだわっている。打ち上げるときの〝ズドーン〟という音、上昇していくときの〝ヒュー〟という音、上空で花火が開くときの〝バン〟という音、そして開いた花火が下降していくときの〝ジジジ〟という音。山間部で打ち上げるときは、こだまも音の要素に加わる。天野さんはさらにそこに音楽を加えることもある。そういうときはどんな音楽を使うか、音源も天野さん自身が選択する。花火の演出に音楽を使う例は前からあったが、音源まで自分で選んで演出するようにしたのは、天野さんが初めてだ。花火と音楽が織りなす一大ページェント。それはまさにアートの世界である。

 もうひとつ、天野さんはリズムも大切にしている。「打ち上げのリズムが人の呼吸より遅すぎると、イライラ感が出てきてしまうことがあります。そういうときはいい花火を打ち上げても拍手をいただけません。人の感動するリズムや会場全体の空気感を受け止めて打ち上げていくことがとても大切なんです」

大量の火薬をワイヤーで山型に高く吊るし、一斉に点火。火の粉がさらさらと流れ落ち、富士山が浮かび上がる。©KazutoshiMurata

 天野さんは2009年に日本大学の大学院で博士号を取得している。博士論文のタイトルは「打ち上げ花火の『印象』―実験的研究による考察」。打ち上げ花火で人が感じる印象、感動、興奮などを学術的に研究したのである。

 15代目を襲名してからは、現場の指揮はすべて天野さんに任されるようになった。集客数日本一の江戸川花火大会の場合、打ち上げに関わる職人の数は約100人に達する。それを統率するのが、天野さんだ。約14,000発の花火は、すべて天野さんの合図に従って打ち上げられる。観客の反応や会場の雰囲気を見ながら、天野さんが出す合図を見て、職人が着火していくのだ。

鍵屋が開発した電気点火器。打ち上げ場の周辺数百メートルに人の姿はない。©KazutoshiMurata

 着火はすべて電気による遠隔操作で行われる。以前は手で直接着火していたが、電気化によって安全性が飛躍的に向上した。この電気化を完成させたのは、父の修さんだ。修さんも伝統を守りながら花火の世界を革新してきた人である。

「たとえば10カ所から花火を同時に打ち上げたいとき、合図に合わせて10人の職人がそれぞれ人手で着火していたら、どうしてもずれが出てきてしまいます。それが電気式だと0.1秒のずれもなく、こちらの意図したとおりのタイミングで着火していくことができます。そうすると演出に幅が出ますし、時間的に正確なので音楽も入れやすくなる利点があります」

大量の火薬をワイヤーで山型に高く吊るし、一斉に点火。火の粉がさらさらと流れ落ち、富士山が浮かび上がる。©KazutoshiMurata

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