次代への羅針盤
楽観性がなければ冒険も挑戦もできない
魚崎浩平
できるという気持ちを持て
最近は博士課程進学者数の減少が問題となっています。大学の研究室の活力は博士課程の学生によるところが大きく、博士課程の学生の減少は研究室の力の低下を招き、ひいては日本の産業競争力の低下にもつながります。私自身も修士課程修了後企業に就職しましたが、それは卒業研究、修士課程の3年間過ごした研究室で、さらに博士課程の3年間を過ごすことに魅力が感じられなかったことが大きな要因でした。
私は大学教員として30名以上の博士課程学生を指導しましたが、約3分の2が他研究室出身者でその半分は留学生です。修士課程修了後そのまま同じ研究室へ進学することを前提とせず、国内外の他研究室への進学、企業経験を経ての進学など多様なルートを考えることが、学生にとっても、研究室にとっても、よいのではないかと思っています。企業が博士課程修了者の採用を考える場合も、多様な経験を持つ学生に、より魅力を感じるのではないでしょうか。
私がフリンダース大学で短期間にドクターを取れたのは、企業での経験があったことが大きく、インターネットも存在しない時代に、オーストラリアという孤立した国で、効率的に研究を進めることができたのは、企業で学んだ考え方、研究の進め方などによるものと思っています。
私は企業に就職した後、海外の研究室で働き、帰国して日本の大学の教員になるという、単線的ではない複線的な道を歩んできました。日本でも企業と大学や研究機関を自由に行き来するような、もっと複線的な生き方ができるようになればいいと思います。と同時に、若い人は国際競争の中にいることをつねに意識し、大きな視点で、世界をリードする研究にもっと挑戦してほしい。そのときには、「Believe in yourself」、自分はできるという気持ちが重要です。ある種の楽観性です。ある程度の楽観性がなければ、冒険も挑戦もできません。もちろん、自分はできると思えるようになるためには、自分を高める努力やトレーニングが必要なことは、いうまでもありませんが。
国際競争の中にいることを
つねに意識すべき
魚崎浩平[うおさき・こうへい] 1947年、兵庫県生まれ。大阪大学工学部応用化学科卒業。同大大学院工学研究科応用化学専攻修士課程修了。修士課程修了後、三菱油化に就職、在職中に南オーストラリア州立フリンダース大学に留学し、博士号取得(Ph.D.)。帰国後は三菱油化に2年間勤務し、英国オックスフォード大学無機化学研究所研究員に転じる。在職1年半で、北海道大学理学部に赴任、講師、助教授を経て教授に。同大を退職後は、国立研究開発法人物質・材料研究機構で13年間研究に取り組み、2023年より現職。1990年に第8回松籟科学技術振興財団研究助成を受賞。かつては登山、スキー、テニスなどを楽しんだが、現在は旅行が趣味という。
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