次代への羅針盤
自分の可能性を狭めてはいけない
川合眞紀
基礎研究を大事にしない危うさ
この10年ほど、政府はイノベーション政策を推進し、論文より特許を書きなさいと言ってきました。先端的な論文をガンガン書いていた研究室の多くも今は特許を書くことを優先させています。こんな状態では、この国の科学研究は壊れると思います。基礎的な研究をもっと大事にすべきです。基礎研究に進む研究者が減っているという人もいますが、予算がそちらに流れれば人材も集まるはずです。そういうことを真剣に考えないといけない時期に日本は来ていると思います。
日本の科学研究の論文数や論文の引用数が減っているのは事実です。インドや中国などが台頭し、相対的に日本のポジションは下がっています。しかし、研究者のクオリティが下がっているとは思いません。
ポスドク問題が全くないとは言いませんが、若い研究者は不安など抱いているときではありません。研究できる場は、国内のアカデミアだけではありません。海外も含めて多様なフィールドがありますから、広く自分の進路を考えてほしいものです。研究室に閉じこもらず、広い知識を身に付けるようにしてください。研究自体ももっと異分野に目を向けたらどうでしょうか。そこにもっと面白いものがあるかもしれませんし、周りを見たら自分のやっていることの新しい価値や広がりに気づくかもしれません。
懸命に努力することは当たり前。努力の裏付けを得て自信を持ち、自分の可能性を狭めず、自信を持って前に進んでほしいと思います。
不安を抱かず、自信を持って前に進みなさい。
研究できる場は国内だけではない。
海外も含めて広く自分の進路を考えてほしい。
川合眞紀[かわい・まき] 分子科学研究所所長 日本化学会会長 1952年、東京都生まれ。東京大学理学部化学科卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。
理化学研究所主任研究員、東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻教授、理化学研究所理事などを経て、2016年4月に自然科学研究機構分子科学研究所の所長に就任。2018年度・2019年度日本化学会会長。ポスドク時代は5年間で4回職場を変えたという。
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