ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

自分の可能性を狭めてはいけない

川合眞紀

大きく広がった分子科学

 それでも子育てのときは大変でした。夫が大阪大学の教員をしているとき、私が理化学研究所に採用され、仕事をしながら2人の子どもの世話をしなければならなかったのです。「ご主人と離れて、どうやって生活していくのですか」と聞かれたこともありました。おそらく同じ立場でも男性ならそういう質問はされないでしょう。女性だから心配される。そのこと自体、バイアスがかかっている証左です。

 東大の教養学部を終える頃は物理学科に進学しようと思っていました。化学はそれほど好きではありませんでした。ところがあるとき、物理学科の先生が「あまり女子は欲しくない」と言っているのが聞こえてきてしまったのです。一方で化学科の先生は「化学は面白いですよ。女性で活躍している人もいっぱいいます」と熱心に話され、卒業生がどういうところで働いているか分かる手書きのリストまでつくってくださいました。それに感動して化学科に進学したのですが、もし私が男性だったら、きっと物理学科に進学していたでしょう。

 分子科学研究所は、大学共同利用機関法人です。国立大学法人法に基づき設置されている大学共同利用機関は全国に17機関があります。国立天文台や国際日本文化研究センターも大学共同利用機関です。

 1975年に分子科学研究所が創設されたとき、分子科学は新しい学問分野でした。ケミストリーとフィジックスの考え方が融合して新しい材料科学の夜明けをつくる。そういう発想でつくられたのが分子科学研究所です。当時は、宇宙空間に存在する分子の分析は、分子科学が最も得意とするところでした。だから天文台との交流も盛んだったと聞いています。現在は、天文学や宇宙物理学の研究者が、宇宙にはどんな分子があるかとか、どういう環境だったらアミノ酸ができるかといった化学反応まで語るようになっています。この40数年間で分子科学は大きく広がり、分子科学の考え方が他の分野にも影響を及ぼすようになったのです。

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