次代への羅針盤
化学を、楽しみましょう
中條善樹
死んでからの生きがい
指導したドクター52人のうち42人が大学に残りました。おかげで今は教授も助教も私の教え子という研究室が4つあります。これが私にとって一番大きな財産だと思います。
自分の教えた学生が教員になれば、そこでまた学生が育ちます。その学生がまた教員になれば、というように考えると、50年、あるいは100年と続いていくかもしれません。そして50年後、100年後にそのうちのひとりが大変な発見や開発をして、人々がその恩恵にあずかり、とても喜んだとき、私の魂がもしそこに浮遊していたら「これは私の弟子が発見したんですよ」と言いたくなるに違いありません。
最近、そんなことを考えていたらふと「死んでからの生きがい」という言葉が思い浮かびました。研究をして、それを教え子が引き継いでいくというのは、なんと素晴らしいことなのでしょうか。
どうしてそんなにドクターが研究室に残るのか、コツを教えて欲しい。他の先生からそう聞かれることがあります。しかし、コツなどありません。ただ、学生に対し「研究室に残れ」とは言わないことにしています。京都大学の学生は特に反骨精神が強いので、「残れ」と言ったらきっと反発して残りません。でも「研究はしんどいけれど、楽しいことがたくさんあるぞ」と言えば、「それならやるしかないな」と考える学生が多いのです。