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次代への羅針盤

次代への羅針盤

新たなビジョンを生み、育む力。まさに今、それが問われている。

榊 裕之

日本の大学から人類の向かうべき道を提示する

 1997年、アジア通貨危機で韓国経済が苦境に陥ったとき、ソウル大学の先生から、卒業生の25%が就職できなくなったと聞かされました。そのとき「大変ですね」と応じたのですが、彼は「韓国企業が採用を止めても、他国企業が採用したくなる学生を育てるのがソウル大学の務めです」と言ったことを今も覚えています。日本の大学も、今後は同様の強い決意を持つことが必要でしょう。もちろん、日本の大学は日本の産業や社会に貢献すべきですが、外国企業が採用したくなるほどに優れた人材を育て、日本経済の状況によらず、国際的な教育機関として高く評価されるだけの力を付けるべきです。教員も学生も、そうした覚悟と決意を持つことが大切になるでしょう。

 話は変わりますが、わが国で少子高齢化が進み、個人としても、社会としても、より賢明な対応が求められています。私も父の介護を通じ、この問題の大きさを認識しました。他方、社会に新たな課題が生じ、ボトルネックが認識されると、その解決のために皆が知恵を出しあうため、新技術や新制度が生まれ、発展が加速することも少なくありません。たとえば、人に優しい介護ロボットや自立支援技術などが発展すれば、高齢化の課題はかなり緩和されるでしょう。

 また、打ち水など、エネルギーをさほど使わずに快適に暮らす種々の手法は、永年にわたり、わが国で考案されてきました。この課題に改めて取り組めば、わが国独自の新たな暮らし方や街づくりを世界に提示できるのではないでしょうか。そうした取り組みを通じ、日本社会のビジョンを刷新し、その中で、技術の役割を再考したいものです。

 日本の大学も、東洋的な発想を生かせば、米国の大学では育てにくい独自の人材を育成できると思います。そうした独自性の高い日本の大学に、世界各地から人を集め、知恵を結集させれば、人類が向かうべき新たな道を見つけ、広めるのに貢献できることでしょう。

 わが国では、政府も大学も企業も力を合わせ、そうしたグローバルな貢献を目指したいものです。

東洋的な発想を生かした日本の大学に、世界から人を集めて知恵を結集させよう。

榊 裕之[さかき・ひろゆき] 豊田工業大学学長/大学院工学研究科教授 工学博士 1944年、愛知県出身。東京大学工学部電気工学科卒。 同大学院工学系研究科電子工学専攻博士課程修了。専門は固体電子工学(半導体ナノ構造の電子物性とその先端デバイス応用)。博士課程修了後、東京大学生産技術研究所助教授就任。同教授を経て2007年、東京大学名誉教授。同年、豊田工業大学副学長就任。2010年から現職。主な受賞歴は、紫綬褒章、江崎玲於奈賞、日本学士院賞、文化功労者など。

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