ハリマ化成グループ

次代への羅針盤

次代への羅針盤

新たなビジョンを生み、育む力。まさに今、それが問われている。

榊 裕之

若い頃の異文化体験は、人を成長させるのに必須の栄養源

 英語も含め、異文化との交流や体験はとても大切で、刺激にも富むものです。私は1962年、17歳で米国に留学し、米国人の大学教授の家庭に1年間逗留し、高校に通いました。当時、社会科の時間には、公民権運動や62年に起きたキューバ危機が話題になり、クラス討論をたびたび経験しました。米国の首根っこにあるキューバにソ連が米国向けのミサイルを配備するのは許すべきでないとの意見が大勢を占める中で、友人のひとりが「米国がソ連の首根っこに位置するトルコにミサイル配備するのも問題ではないか」と異論を述べたのです。こうした少数意見も、袋叩きには遭わず、皆の理解を深めるものとして尊重されたことが印象的であり、今も覚えています。

 国籍や文化が異なる人と付き合うと、日頃は気付かないことを多く学べます。逆に、相手の方も学んでいるはずです。若い頃の異文化体験は、人の均衡ある成長に必須の栄養素ともいえるでしょう。

 異文化交流の観点でいえば、企業と大学の付き合いもそのひとつであり、両者にとって貴重です。

 産学間の付き合いに関しては、共同研究も大切ですが、大学が、鉄なら鉄、機械加工なら機械加工に関して、徹底的に学術研究を行い、さまざまな問題の解決や信頼性向上のヒントになる知見を提供することが、なにより大切でしょう。

 そうした大学の中で、質の高い研究を経験した学生が産業界に入れば、よい仕事をします。したがって、大学のすべき社会貢献は、特に工学の分野では、産業界で活躍する優秀な人材を育てることと、学術研究の基盤を築くことを、最も大切にすべきだと思います。

 したがって、工学系の研究室の価値の多くは、そこを出た学生が産業界でどれだけ活躍しているかで決まります。特に、博士号取得者は、GEのウェルチ前会長やドイツのメルケル首相など、欧米では高く評価され、リーダーとして大活躍していますが、わが国では、博士は専門にこだわり、使いにくい存在だと考える企業人が少なくなく、誠に残念です。

 本来は、博士課程において、対象の研究分野の現状を分析し、未解決の重要課題を設定します。続いて、課題解決のための計画を立て、自ら実行するわけですから、高度の研究開発能力が磨けます。

 また、成果を英文で論文にまとめ、発表も経験するので、内外に人脈も築けます。わが国の企業の高度化と国際化のために、研究開発部門の1割ほどに、幅広い経験を積んだ博士人材を配置いただきたいものです。

 そうした状況を実現するには、博士課程での人材育成法と企業での活用法を共に改善する必要があります。本学では、その観点から、博士課程の学生に国内外でインターン経験をさせてきましたが、さらに産業界の方をメンターに指名し、助言をいただく仕組みも始めています。そうした取り組みにより、企業側から「ぜひ入社して欲しい」と言われる優れた人材が次々と育ってくれることを期待しています。

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