ハリマ化成グループ

One Hour Interview

One Hour Interview

新しい連結様式で拡張型ポリアニリン誘導体を精密合成

道信剛志

独自の化学を確立したい

「新しい有機材料は分子設計によって無限につくりだせる」「独自の化学を確立したい」とおっしゃっていますね。

 スイス連邦工科大学チューリッヒ校に留学していたときのことです。事情があって約2年で急に帰国することになってしまいました。こういうとき、日本だと事務的な手続きなどで忙しくなるイメージがありますが、私がいた研究室の先生は「私の化学を楽しんだか?」と聞いてきたのです。スイスでしていた研究はうまくいかなかった部分もかなりありましたし、きれいにまとめることができなかった部分もありました。それでも、世界中でその研究室しかやっていない研究内容で、困難を乗り越えるために毎日考え、手を動かして新しいものをつくる作業は、確かに楽しいものでした。私の研究室の学生にも、そういう楽しさを感じて欲しいものです。

帰国されてからは高分子材料の研究をされていますが、スイスでは低分子の合成を研究されていたそうですね。

 学生のときは高分子の材料を扱っていましたから、元に戻ったということでしょうね。有機合成ができれば低分子の合成も高分子の合成もできるのですが、最初に低分子の合成から入った人は、高分子の合成をあまりやりたがらないところがあるように感じます。高分子は分子量が異なる分子の混合物なので、なんとなく汚い材料のようなイメージを持っているのかもしれません。私たちのように高分子から入ると、そういう悪いイメージを持っていないので、低分子の合成法を使って高分子をつくることにも抵抗がありません。

チューリッヒ校を留学先に選んだのは、他ではやっていない低分子の研究をしていたからですか。

 それもありました。その研究室のホームページを見て、面白そうだなと思ってメールを送ったのですが、人気のある研究室でしたから、何で自分が入れたのかなと思います。そこはいまだに不思議です(笑)。

昨年からご自分の研究室をお持ちになったわけですが、どういう研究室づくりを目指していますか。

 去年は時間をかけて研究室のルールを整備してきました。実験ノートは、カーボンコピーできるものを特注しています。コピーの方を学生が保管し、オリジナルは研究室で保管することにしています。細かいところまできちんとするのが好きな性格なので…。でも、やはり研究は面白い、化学は楽しいと学生が思えるような研究室を目指すのが基本です。私自身は今、デスクワークが多くなり、自分で実験することはほとんどなくなりましたが、やれば楽しいのは分かっています。学生もきっと楽しんでいると思いますよ。

東京工業大学大学院 理工学研究科 有機・高分子物質専攻 准教授 道信剛志[みちのぶ・つよし]1976年、広島県生まれの東京育ち。早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了。スイス連邦工科大学チューリッヒ校博士研究員、東京農工大学大学院助教、東京工業大学グローバルエッジ研究院テニュア・トラック助教などを経て、2012年10月から現職。趣味はスポーツ観戦。広島に住んだことはないが、プロ野球はカープファン。

「第31回松籟科学技術振興財団研究助成 受賞」

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