伝説のテクノロジー
世界一の音楽ホールをつくりたい
軽井沢大賀ホール
元相談役・支配人 大西泰輔さん
歳月とともに音が良くなる
「演奏者にとっても、いいホールで演奏すると、気分が高まり、結果的に普段よりいい演奏ができるようになったりするものです」
と語る大西さんは以前、合唱団を組織し、自分も団員として参加していたことがある。5年前、軽井沢大賀ホールで春の音楽祭が開かれたとき、その合唱団を率いてステージに立ち、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏でモーツァルトのレクイエムを合唱した。
「自分がつくって育てたようなホールですからね、最高の気分でしたよ。でも、客席に見知った顔がたくさんあり、照れくさい気持ちもありました」
そういって笑いながら大西さんは懐かしそうに目を細める。
軽井沢大賀ホールは、ステージから客席の最後部までの距離が16メートルほどしかない。だから最後部の席からもステージ上の演奏者がよく見えるし、演奏者からも客席がよく見える。そのせいもあるのだろう、素晴らしい演奏が行われると、空間全体に強い一体感が生まれるという。「大賀さんは『歳月を経るとともに音響的な味わいを増すようなホールにしたい』と話していました。実際今は、オープン当初よりもいい音になっているように感じます。大賀さ んも今頃、空の上で耳を澄ましているんじゃないですか」
ホールの天井にはトップライトがあり、晴れた日には陽光が降り注ぐ。客席の後方にも窓があり、夕方には夕日が射し込む。春には咲き誇る花々が見え、冬には降りしきる雪景色が窓から望める。演奏者も客も、ときの移ろい、季節の移ろいを感じながら演奏し、聴き入る。自然の中で、自然とともに豊かな調べを奏でる軽井沢大賀ホールは、それ自体、ひとつの楽器なのかもしれない。
おおにし たいすけ 1939年、横浜市生まれ。青山学院大学卒業後、博報堂を経てCBS・ソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。洋楽を担当し、マイケル・ジャクソン、ビリー・ジョエル、ポール・サイモンらと親交を深める。CBS・ソニーコミュニケーションズ社長を経て、2004年、財団法人(現 公益財団法人)軽井沢大賀ホール常務理事・支配人に就任し、大賀典雄氏とともに世界一の音楽ホ ールづくりに邁進。2015年に退任するまで、大賀氏の遺志を受け継ぎホールの運営に力を注いだ。
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