伝説のテクノロジー
真空管アンプが生み出す“本物の音”
コンサート会場で演奏されたときの音をそのまま忠実に再現したい。
そんな想いでひたすら開発を続けてきた。そしてたどり着いたのは、真空管のアンプだった。
トランジスタにとって代わられ、日本ではもはや生産さえされていない真空管を使って原音を探求し続けてきた今井清昭さん。ヨーロッパの人々は尊敬の念を込めて、そんな今井さんを“オーディオのマエストロ”と呼ぶ。
オーディオ職人 今井清昭さん
原音に限りなく近い音を求めて
JR八王子駅から北へ車で10分ほど走ると、喫茶店のような外観の建物が道路沿いにある。今井清昭さんが経営するオーディオテクネインコーポレイテッドの工房だ。
この工房にはしばしば遠方からの客が訪れる。オーディオテクネがつくるアンプやスピーカーの評判を聞いて、青森や山形から来た音楽好きもいた。
そうした客を笑顔で迎えた今井さんは、とりあえず何も説明せずに、自社製品のオーディオでレコードやCDを聞いてもらう。
「ちょっと物足りない感じですね」
初めてオーディオテクネの製品で音楽を聞いた人は、そう答えることが多い。だが、そう言いながらもたいていの客がそのまま音楽を聞き続ける。3時間、4時間は当たり前。中には延々13時間もオーディオの前に座り続けた人もいたという。
「私たちは、いい音ではなく、原音に限りなく近い正しい音を求めています。そういう音は、一般のオーディオで音楽を聞き慣れた方には最初、物足りなく感じられるかもしれません。でもそういう音は、いくら聞いてもうるさくないので、皆さんつい時間を忘れて聞き惚れてしまうのです」
今井さんが穏やかな口調で言う。
大手メーカーがつくるオーディオは、重低音が効いていたりして、迫力がある。ベースやテナーサックスの腹に響くような音は、確かに“いい音”だ。だが、実際のコンサートやライブで聞く音とは違う。正しくない音というのは言い過ぎかもしれないが、つくられた音であることは紛れもない事実だろう。
面白いことにオーディオテクネのスピーカーは、そばにいても少し離れたところにいても、音質はもちろん音量もほとんど同じように聞こえる。そういえばコンサートでは、一番前の席でも最後列の席でも、演奏はほぼ同じように聞こえる。なるほど、これが原音に近いということか。