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伝説のテクノロジー

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思いやりの心が伝わる紙の建築

行動する建築家 坂茂さん

図書室とアトリエも計画

 東日本大震災では、体育館などの避難所で紙管と布を使った間仕切りを提案し、無料で提供した。素人でも簡単に組み立てられるものだが、「これで他の人の視線を気にしないですむようになった」と被災者には歓迎された。夏には布の代わりに蚊帳を掛けて、虫除けの役割も果たす優れものだ。

避難所になっている女川町総合体育館でも使われている間仕切り。これによってプライバシーが守られたのは一目瞭然。

 「避難所も、今までの仮設住宅も、被災した人たちの人権とかプライバシーをほとんど無視したものといわざるを得ません。だから私は女川で新しい提案をしているのです」

 女川では、紙管を使って図書室とアトリエを作るプランもある。189戸すべてに被災者が入居したら、400人から500人がここで暮らすことになる。これだけの規模のコミュニティになれば、それなりの付帯施設が必要になるのは当然のことだ。けれども行政からそのための資金は一切出ない。市場も含めてこれらの施設の建設費はすべて支援者の寄付金などで賄う。すでに音楽家の坂本龍一さん、日本画家の千住博さんらが寄付金を拠出している。もちろんボランティアも大勢参加している。紙管は軽いので組み立てに重機などを使う必要はなく、ボランティアでも作業は可能だろう。まさに人々の思いがこめられた手づくりのコミュニティになりそうだ。

 「周辺の環境も整備したい」と坂さんも意気込む。

 当たり前の普通の生活を取り戻すことが、復興の第一歩。10月中旬より順次入居が始まれば、きっとここでは毎日子どもたちのはしゃぐ声や大人たちの明るい話し声が聞こえることだろう。

[ばん・しげる]建築家。1957年、東京生まれ。米国で建築学を学んだ後、1985年、坂茂建築設計を設立。国内外の災害地などで仮設住宅やシェルターを建設。紙管を構造材に用いた“紙の建築”でも知られる。2011年10月から京都造形芸術大学芸術学部環境デザイン学科教授。

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