ハリマ化成グループ

伝説のテクノロジー

思いやりの心が伝わる紙の建築

紙で住宅をつくる。そう聞いたら大方の人が「まさか」と思うのではないだろうか。
だが、建築家の坂茂さんは、住宅だけではなく教会やドーム、万博の展示館など、
数多くの「紙の建築」を世界各地でつくってきた。
東日本大震災の被災地でも、そうした「紙の建築」の理念やテクノロジーが活用されている。
その根本にあるのは、建築家としての使命感と、人への暖かいまなざしだ。

行動する建築家 坂茂さん

コンテナを使った3階建ての仮設住宅

 東日本大震災の被災地の中でも、最も被害が大きかった地域のひとつといわれる宮城県女川町。その女川町の総合運動場内にある野球場に建設され、10月中旬から被災者の入居が始まった仮設住宅が各方面から注目されている。というのも、全部で9棟、189戸あるこの仮設住宅、3棟は2階建てで、6棟は3階建てなのだ。2階建ての仮設住宅も珍しいが、3階建ては日本で初めてである。

中堅:120メートル、右翼:91メートル、左翼:91メートル。地震の前までは球音が響いていた野球場に、今は仮設住宅が次々と建っていく。

 しかも設計もユニークだ。海上輸送などで使われる鉄製のコンテナを市松模様状に積み重ねた構造なのである。

 2、3階建てにしたのは、高台に平地が少ないため、限られた広さの土地にできるだけ多くの住宅を建設するというのが理由だが、それだけではない。2、3階建てにした分、敷地のスペースに余裕が生まれる。そのためここの仮設住宅は、一般によく見られる平屋建ての仮設住宅と比べると、棟と棟の間がずっと広い。被災者のプライバシーという点で、

 これは大きな意味を持つ。さらに駐車場を住宅のすぐそばに整備することもできるようになった。そしてもうひとつ、住宅に囲まれた中央部のスペースには、大きなテントを張った形の市場もマーケットつくられる予定なのだ。津波で自家用車を失った人や、もともと車を持っていない高齢者も、日用品などはこの市場で買うことができる。

 「コンテナを使ったのは工期を短くできるから。耐震性も高いし、内側に断熱材を張り巡らしているので寒さにも強く、上階の音が下に響くようなこともありません。従来からのプレハブの平屋型仮設住宅は収納が少ないため、室内が片付かないという方も多いので、ここではボランティアに壁面収納の棚などを作ってもらい、十分な収納スペースを確保できるようにしています」

 この仮設住宅を設計した坂茂さんが、そう語る。

 限られた年限であっても、実際にそこで暮らし、生活する人々がいる。そうであるならば、たとえ“仮設”という2文字が付こうとも、そこに住まう人々の暮らしやすさや安心、利便性を第一に考えるべきではないのか。女川町総合運動場に建てられたこの仮設住宅を見ていると、坂さんのそうした魂の叫びが聞こえてくるかのようである。

現場に着くなり仮設住宅の進捗具合を確認する。

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