次代への羅針盤
大学や企業の壁を越えもっと外へ
片岡一則
『ミクロの決死圏』が現実に
COINSにはいくつかのサブテーマがありますが、私自身は体内病院の中核技術の1つとなるナノマシンの研究をしています。
1960年代に『ミクロの決死圏』という映画がありました。私も観ましたが、人間と乗り物を小さくして体内に入れ、病気の治療をするSF映画でした。人間を小さくするのは無理ですが、乗り物(機械)は小さくすることが可能です。それがまさに体内病院の目指すところです。ただ人間の体の中、さらに細胞の中にまで入っていくとなると、マイクロマシンでもまだ大きすぎます。100ナノメートル以下、つまりウイルスサイズのナノマシンが必要です。これをすべて、分子技術でつくります。
私は1980年代の後半から、ポリエチレングリコール(PEG)とポリアミノ酸のブロック共重合体と薬物の間で形成される高分子ミセルを、DDS(drug delivery system)として応用する研究を進めてきました。薬剤などを内部に入れた高分子ミセルを体内に投入し、目的とする場所に着いたらpHが下がることでミセルが壊れ、薬剤を放出する、という仕組みです。これが高度なDDSともいえるナノマシンの基本形です。