次代への羅針盤
真の科学技術創造立国となるために
野依良治[前編]
ソロからオーケストラへの転換を
2014年、発明協会が「戦後日本のイノベーション100選」を発表しました。内視鏡や新幹線、発光ダイオード、かわったところではインスタントラーメンなどがトップテンに入っていました。確かにどれも素晴らしい発明品です。
日本には優れた科学、技術があります。でも、それだけでは不十分です。イノベーションというのは、単なる技術革新のことを言うのではありません。社会を変革するような新しい価値を生み出すことを、イノベーションと言うのです。その意味でこれらは過去からの延長線上にない、大きなイノベーションでした。
こうしたイノベーションを生み出すには、ひらめきと決して諦めない信念が必要です。
では、どうすればひらめくことができるのでしょうか。ひとりで象牙の塔にこもっているようでは、ひらめきは生まれません。よいひらめきは、しばしば多様な人とオープンに議論することから生まれるのです。
サイエンスも、オープンサイエンスの傾向にあります。若い人を囲い込んで知識や技術を秘密にしているようでは、驚くようなひらめきもイノベーションも生み出すことはできません。
要するにスポーツであれば個人戦から団体戦、音楽でいえばソロからオーケストラへの転換です。さまざまな異なる個性が集まり、それぞれの特性が合わさってハーモニーとなったときこそ新しい価値が生み出されるのです。そのためにはプレーヤーだけでなく、優れた指揮者が必要です。
米国の国防高等研究計画局では、辣腕のプログラムマネージャーを公募で集めて技術開発しています。こういう方式からインターネットやGPS、掃除ロボットなどのイノベーションが生まれてきたのです。そういう気概のある人材を日本でも育てないといけません。